- 徒歩・自転車通学と認知検査のよい成績との関連は、女子で見られ、男子では見られなかった研究があります。
- 歩行を取り入れた実験では、頭を使う課題への心拍や血圧の反応が小さくなりました。
- 観察研究をまとめた結果では、頭の働きや数学・言語の学力との関連は明確ではありませんでした。
- 体の反応、認知検査、学校の学力は異なる指標であり、手段を選ぶ際の意味も異なります。
徒歩や自転車で通塾する子は成績がよいか|通学の手段と学力の研究
住宅街の路地を塾のかばんを背負った子が歩き、後ろから来た自転車が追い越していきます。路地の分岐点で駅へ曲がる子も、そのまま歩き続ける子もいて、同じ授業に通う子でも着くまでの過ごし方は違います。親としては、移動の間に体を動かせば、座って乗り物に乗るより勉強にもよさそうに感じるかもしれません。徒歩や自転車を選ぶことで、授業への集中や成績までよくなるのでしょうか。
研究には、歩きや自転車で通う子の一部で認知検査の成績がよかったという報告があります。認知検査は頭の働きを課題で測るもので、学校の試験の点や通知表とは測る内容が違います。徒歩や自転車で通塾する子の成績がよいという答えは定まっておらず、通う手段は安全と続けやすさを軸に選ぶのが妥当です。 よい結果が出た集団だけを取り上げず、関連が明確でなかった研究まで読むと、この答えに至る理由がわかります。
移動中の運動、到着直後の体の反応、日々の学習の積み重ねは、それぞれ異なる話です。これらをひと続きの効果として扱うと、通い方への期待が大きくなります。まず研究が測ったものを押さえ、そのうえで家庭の通塾に使える判断材料を考えます。
要点
- 徒歩・自転車通学と認知検査のよい成績との関連は、女子で見られ、男子では見られなかった研究があります。
- 歩行を取り入れた実験では、頭を使う課題への心拍や血圧の反応が小さくなりました。
- 観察研究をまとめた結果では、頭の働きや数学・言語の学力との関連は明確ではありませんでした。
- 体の反応、認知検査、学校の学力は異なる指標であり、手段を選ぶ際の意味も異なります。
女子で見られた関連は、通い方への期待をどこまで支えるか
体を動かしてから机に向かうと頭も働く、という考えは日常の実感と結びつきやすいものです。徒歩や自転車なら、移動と運動を同じ時間に行える点にも魅力があります。ただし、その魅力と、研究で測った成績の差とは別々に扱う必要があります。まず注目したいのは、よい関連を報告した研究でも、対象の全員に同じ結果が出たわけではないことです。
Martínez-Gómez ら(2011)は、13〜18.5歳の1,700人を対象に、学校への通い方と認知検査の成績を調べました。女子では、徒歩や自転車で通うことがよい検査成績と関連していましたが、男子ではその関連が見られませんでした。課外の身体活動など、結果に関係しそうな条件を分析で考慮しても、女子の関連は残っていました。この研究は、普段の通い方を観察して比べた研究です。
同じMartínez-Gómez ら(2011)の研究では、徒歩や自転車での通学が15分を超える女子は、それ以下の女子より、認知検査の4項目のうち3項目でよい成績でした。また、体を動かさずに通う女子との比較では、すべての認知検査項目でよい成績でした。著者らは、体を動かす通学とその時間が、思春期の女子の頭の働きによい影響を及ぼす可能性を述べています。ここで示された時間は、調査で集団を区切るための値です。
集団を分けた境目を、家庭で達成する目標に読み替えると、研究とは違う使い方になります。短い道をわざわざ遠回りして、その時間を超えるようにする理由にはなりません。また、男子で関連が見られなかったことを、男子は体を動かす意味がないという評価に広げるのも飛躍です。男女による結果の違いは、全員に同じ学習上の利点を期待する前に立ち止まる理由になります。
研究をまとめると、学力との関連は明確ではない
個々の研究を読むだけでは、よい結果の報告が印象に残りやすくなります。そこで役立つのが、一定の条件で研究を集めて結果を検討する系統的レビューです。さらに、比較に使える数値をまとめる方法をメタ分析と呼びます。報告をまとめると、最初に読んだ研究と違う景色になる場合があります。
Ruiz-Hermosa ら(2019)は、子どもと思春期の若者の通学を扱った観察研究を集め、12本のうち9本をメタ分析に含めました。結果では、徒歩・自転車通学と頭の働き、数学関連の力、言語関連の力との関連はいずれも統計的に明確ではありませんでした。統計的に明確ではないとは、ばらつきを考慮したときに関連があると判断する根拠が十分でなかったという意味です。著者らも、頭の働きや学力との関係を支える証拠は不十分だと結論づけています。
Phansikar ら(2019)も、9か国の4〜18.5歳を含む12本の研究を検討しました。数値をまとめた分析では、徒歩・自転車通学と数学の点との関連は明確ではありませんでした。この結果は、通学の運動に学習上の大きな利点を期待する見方を弱めます。一方で、研究が対象にした指標は数学などの学力であり、通うことの価値すべてを採点した結果ではありません。
| 通学手段に期待する変化 | 認知検査・学力との関連 | 通学研究の対象と方法 |
|---|---|---|
| 体を動かして通う子は頭の働きがよい | 女子で関連があり、男子では見られなかった | 思春期の若者の観察研究、Martínez-Gómez ら(2011) |
| 歩いて通うと学力全般が高くなる | 数学や言語の力との関連は明確ではなかった | 子どもと思春期の若者の観察研究のまとめ、Ruiz-Hermosa ら(2019) |
| 通うときの運動は数学の点に表れる | 数学の点との関連は明確ではなかった | 複数の国の研究のまとめ、Phansikar ら(2019) |
歩いた後のストレス反応と、試験の点は別の結果
学校へ歩くことに関する研究には、成績そのものではなく、課題に直面したときの体の反応を測った実験もあります。難しい問題を前にしたときの緊張を考えるうえで、こうした測定には意味があります。ただし、心拍の上がり方が小さいことと、問題の正答が増えることとは異なります。何を測った研究なのかによって、結果から考えられることも変わります。
Lambiase ら(2010)は、10〜14歳の40人を、座って車で通学する場面をまねる組と、歩いて通学する場面をまねる組に無作為に割り当てました。無作為に割り当てるとは、本人や親の希望ではなく偶然によって組を分けることです。その後に頭を使う課題に取り組んだとき、歩いた組では、座っていた組より心拍や収縮期血圧などの上がり方が小さく、本人の感じるストレスの反応も小さくなりました。収縮期血圧は、心臓が縮んで血液を送り出すときの血圧です。
この実験の特徴は、通う手段を本人の普段の選択に任せず、条件を作って比較したことにあります。歩く子と乗り物に乗る子の家庭の違いをそのまま比べる調査より、実験中の歩行に着目しやすい形です。また、感想だけでなく体の測定値も使っているため、課題への反応を複数の面から捉えています。Lambiase ら(2010)は、学校生活で頭を使う課題に直面した際の体と主観的なストレスの反応を、体を動かす通学が和らげる可能性を述べています。
この結果を読むときは、評価した時間の幅にも目を向けます。実験で扱ったのは歩行後の課題への反応で、学期を通して身についた知識や学校の評定とは時間の幅が違います。試験の点には、学んだ内容を理解しているか、問題をどう解いたかといった過程も含まれます。体が落ち着くという結果を尊重しつつ、学力という別の結果に置き換えない読み方が大切です。
家庭や道の条件が、通う手段と成績の両方に関わる
普段の通学を調べる観察研究では、歩く子と乗り物に乗る子が、初めから同じ条件にいるとは限りません。たとえば、住まいと学校の位置関係、送り迎えを担える大人の都合、周辺の道の状態によって、選べる手段は変わります。これらは家庭で想定できる条件の例であり、特定の研究参加者の事情を述べたものではありません。通い方を本人の好みだけで決められる家庭もあれば、選択肢が限られる家庭もあります。
通う手段と学習の結果の両方に別の条件が関係していると、移動の効果のように見える差が生まれます。このように、別の要因が結果の読み取りに混じることを交絡といいます。Ruiz-Hermosa ら(2019)は、今後の分析でこうした要因を考慮し、通学の測り方もそろえることを課題に挙げています。Martínez-Gómez ら(2011)のように一部の条件を分析で考慮した研究でも、通学以外の生活全体をそろえた比較とは異なります。
また、「徒歩」「自転車」「乗り物」という名前だけでは、移動の中身が粗くなります。電車を使う日にも家から駅まで歩く部分があり、自転車の日にも押して進む部分があり得ます。同じ分類に入る子でも、移動中の体の使い方や待ち時間は同じとは限りません。研究の分類を家庭に持ち込む際には、手段の名前と実際の行動のずれに注意が向きます。
扱った研究は学校への通学を調べたもので、東京の夜の塾通いを直接調べたものではありません。授業を終えた後にさらに塾へ向かう日と、学校の授業が始まる前の移動では、それまでの過ごし方も異なります。家庭で今の手段を見直すなら、学力への期待だけで理由を埋めず、実際に困っていることから考えるほうが整理しやすくなります。乗り物を使っているというだけで、学習の機会を失わせていると親が責任を感じる必要はありません。
塾へ三鷹駅から通うなら、授業に入るまでの負担を見る
手段を変える理由として扱いやすいのは、通塾の当日に生じている不都合です。歩くと移動が負担になり、到着時には休みたい子もいれば、乗り物を待つことが落ち着かない子もいます。足を痛めている子や、歩行で強い疲れが出る子に、学力を期待して歩く量を増やすのは適しません。夜の自転車には転倒や衝突の危険もあるため、成績への期待で危険を引き受ける選び方は避けます。
まず、歩いて着いた日と電車で着いた日について、授業の最初の10分の様子を本人に聞く方法があります。「集中できたか」だけでなく、説明を聞き始められたか、席で休みたかったかなど、場面を絞ると答えやすくなります。これは家庭で移動の負担を知るための振り返りで、研究で効果が認められた検査ではありません。その日の課題が難しかったことまで移動のせいにせず、本人が実際に感じた困り事を拾います。
次に、本人の手帳にある到着時刻を、通う手段ごとに見る方法があります。平均的な早さを求めるより、早く着く日と遅く着く日のばらつきに着目します。遅い日だけ準備に追われるなら、手段そのものに加えて出発前の支度や待ち合わせも見直す候補になります。授業の入口で何が起きているかを扱うため、成績が変わるまで判断を先送りせずに済みます。
さらに手段を選び直す場面では、塾が終わる時刻に合わせ、親が帰り道を候補と同じ手段で一度だけ通ります。徒歩なら道の明るさと人通りを見て、自転車や電車なら、それぞれの移動に伴う扱いにくさも含めてたどります。その道をその時刻に本人がひとりで帰れるかという判断を、成績とは別の欄に置きます。候補を残す基準は、往路の便利さだけでなく、授業後の本人が家まで戻れる道筋です。
よくある質問
きょうだいで通う手段をそろえるべきですか
きょうだいで同じ手段にすること自体を、学習上の目標にする理由はありません。Martínez-Gómez ら(2011)の結果でも関連の現れ方は一様ではなく、家族内で同じ成績への変化を期待する考えとは距離があります。一緒に移動する便利さがあるならそれを理由に選べますが、別々に通う場合も、歩く側を勉強に熱心な子、乗る側を消極的な子と評価する必要はありません。
休日の授業だけ歩く形でもよいですか
休日だけ徒歩にするなど、授業のある日の条件に合わせて手段を変える選び方もあります。Phansikar ら(2019)がまとめたのは学校への通学と学力などの関係で、毎回同じ手段を守ることを学習の条件として示した結果ではありません。休日に余裕があり、本人も歩くことを好むなら、その過ごしやすさを理由に選び、平日に乗り物へ戻すことを学習上の後退と捉えずに扱えます。
歩けない日は、授業前に別の運動で埋め合わせますか
通学で歩かなかった分を、授業前の運動で埋め合わせるノルマにする必要はありません。Lambiase ら(2010)が比べたのは歩く通学をまねた条件と座って移動する条件で、さまざまな運動への置き換え方を比較した実験ではありません。移動とは別に運動を楽しむことと、授業の直前に学習効果を狙って課題を追加することは目的が異なるので、乗り物を使う日にも普段どおり授業へ向かって構いません。
この記事の限界
対象は学校へ通う子どもと思春期の若者であり、夜に学校生活の後から塾へ向かう子の疲れ方や、授業を終えて帰宅する場面を調べた結果とは異なります。認知検査の点、数学や言語の学力、実験中の心拍や血圧は測る内容も時間の幅も違い、それらを通塾による成績の変化という一つの尺度に置き換えることには隔たりがあります。
通学の手段を扱う研究のほとんどは観察研究で、家庭の事情や住む地域など、手段の選択に関係する条件も結果に混じり得ます。今回取り上げた研究には、徒歩・自転車・乗り物を割り当てて学力を長く比べた試験がなく、手段を変えた後の長期的な学力の変化は未評価のままです。
参考文献
- Martínez-Gómez D, et al. Active commuting to school and cognitive performance in adolescents: the AVENA study. Arch Pediatr Adolesc Med. 2011;165(4):300-305.
- Ruiz-Hermosa A, et al. Active Commuting to and from School, Cognitive Performance, and Academic Achievement in Children and Adolescents: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies. Int J Environ Res Public Health. 2019;16(10):E1839.
- Phansikar M, et al. Active Commute in Relation to Cognition and Academic Achievement in Children and Adolescents: A Systematic Review and Future Recommendations. Int J Environ Res Public Health. 2019;16(24):E5103.
- Lambiase MJ, et al. Effect of a simulated active commute to school on cardiovascular stress reactivity. Med Sci Sports Exerc. 2010;42(8):1609-1616.
改札を出てから扉に着くまでの数分が、続くかどうかを決める。
- 向く人: 授業や練習のあと、駅までの帰り道をできるだけ短くしたい人
- 向く人: 通勤や通学の途中の駅で、乗り換えを増やさずに通いたい人
- 向かない人: 駅から離れた場所へ、車の送り迎えで通うことを前提にしたい人
- 向かない人: 移動をせず、自宅だけで学びや運動を済ませたい人
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きょうだいで通う手段をそろえるべきですか
きょうだいで同じ手段にすること自体を、学習上の目標にする理由はありません。Martínez-Gómez ら(2011)の結果でも関連の現れ方は一様ではなく、家族内で同じ成績への変化を期待する考えとは距離があります。一緒に移動する便利さがあるならそれを理由に選べますが、別々に通う場合も、歩く側を勉強に熱心な子、乗る側を消極的な子と評価する必要はありません。
休日の授業だけ歩く形でもよいですか
休日だけ徒歩にするなど、授業のある日の条件に合わせて手段を変える選び方もあります。Phansikar ら(2019)がまとめたのは学校への通学と学力などの関係で、毎回同じ手段を守ることを学習の条件として示した結果ではありません。休日に余裕があり、本人も歩くことを好むなら、その過ごしやすさを理由に選び、平日に乗り物へ戻すことを学習上の後退と捉えずに扱えます。
歩けない日は、授業前に別の運動で埋め合わせますか
通学で歩かなかった分を、授業前の運動で埋め合わせるノルマにする必要はありません。Lambiase ら(2010)が比べたのは歩く通学をまねた条件と座って移動する条件で、さまざまな運動への置き換え方を比較した実験ではありません。移動とは別に運動を楽しむことと、授業の直前に学習効果を狙って課題を追加することは目的が異なるので、乗り物を使う日にも普段どおり授業へ向かって構いません。