- 歌詞のある音楽で、言葉の記憶や読解、注意の成績が下がった実験があります。
- 音楽の影響は課題によって異なり、言葉の学習でも差が出なかった実験があります。
- ふだん音楽を聴きながら読む習慣と、曲を好きかどうかは別の条件です。
- 家庭では音の条件、覚える時と解き直す時、曲へのなじみを分けて確かめます。
乗換の待ち時間に歌詞のある曲を聴きながら暗記する中学生|音楽と勉強の研究
90人の大学生を対象に、音楽を聴く習慣と読解の関係を調べた Sun ら(2024)は、ふだん音楽を聴きながら読む人では、音楽による妨げが小さかったと結論づけています。対象は中国東部の大学生で、中国語の曲、英語の曲、音楽なしという条件を比べた実験です。「曲を流すと落ち着く」という本人の感覚を聞く意味はありますが、音楽への慣れと、覚えた言葉が残ることは分けて考える必要があります。
乗換通路を抜け、次の電車を待つ間に単語帳を開く中学生を考えてみます。イヤホンから好きな歌が流れていると、短い待ち時間も勉強に向かいやすく感じるかもしれません。けれども、歌詞のある曲を聴きながら覚えると、単語が頭に残る妨げになるのでしょうか。歌詞は言葉の記憶や読解を妨げる場合があるため、暗記では音楽を止めた条件を比較の基準にし、曲の好みと実際の思い出しを別々に確かめるのがよいでしょう。 音楽を使う場面を選ぶために、妨げがあった実験と、差がなかった実験の両方を読みます。
要点
- 歌詞のある音楽で、言葉の記憶や読解、注意の成績が下がった実験があります。
- 音楽の影響は課題によって異なり、言葉の学習でも差が出なかった実験があります。
- ふだん音楽を聴きながら読む習慣と、曲を好きかどうかは別の条件です。
- 家庭では音の条件、覚える時と解き直す時、曲へのなじみを分けて確かめます。
歌詞が気になる時は、言葉の課題から見直す
「好きな音楽なら集中が続く」という話は、勉強を始める気持ちと、勉強した内容の成績を一緒に扱いがちです。単語帳を長く開いていられることと、閉じたあとに意味を答えられることでは、見ているものが違います。親子で音楽について話す時も、まずは何を良くしたいのかをそろえると話が進みます。暗記が目的なら、机に向かう姿より、思い出せた言葉を判断の中心に置きます。
Souza ら(2023)の実験では、歌詞のある音楽が言葉の記憶、視覚の記憶、読解を妨げ、効果量はおよそ -0.3 でした。効果量とは、成績の差をばらつきを物差しにして表す数で、この負の値は成績が下がる方向を示します。これは正答率や点数の減少率ではなく、単語帳で失う点数に読み替えるものでもありません。著者らは、背景で流れる音楽が課題の妨げになるという見方を支持する結果としています。
注意に焦点を当てた Shih ら(2012)も、歌詞のある背景音楽で集中や注意に有意な悪影響があったと報告しています。有意とは、統計上、偶然のばらつきだけでは説明しにくいという意味です。対象は20〜24歳の102人で、著者らは作業環境で音楽を流すなら歌詞のない曲を望ましいとしています。言葉を読む時に歌の言葉へ気が向く子にとっては、まず歌詞を外してみる理由になります。
家庭で観察するなら、「集中していない」と決めつけるより、どこで手が止まるかを本人と見ます。歌の一節を追っているのか、単語の意味を考えているのかでは、止まっている理由が違います。読み直しが続く場所や、歌に合わせて口が動く場面を聞き、音楽を止めた場合と比べる材料にします。
差のなかった実験と、良くなった課題も読む
歌詞で成績が下がる結果があっても、背景音楽を使うすべての勉強を同じ扱いにするのは粗い判断です。実験で何を覚え、何を答えたかを読むと、異なる結果が並んでいます。まず、言葉を学ぶ課題でも、歌声の有無による強い差が出なかった研究があります。反対の結果を残して読むことが、子どもの方法を一律に否定しないために役立ちます。
Jäncke ら(2014)は226人を、対照となる組と音楽条件の異なる組を含む5組へ無作為に割り当てました。無作為とは、くじ引きのように本人の希望によらず組を決める方法です。最初の5回の思い出しでは言葉の学習が進みましたが、対照の組と実験の組の間に強い差はありませんでした。著者らは、覚える時に流れる歌声や楽器の音楽は言葉の学習に影響しなかったと結論づけています。
Küssner ら(2016)の外国語単語の学習でも、背景音楽による効果は見られませんでした。著者らは、人による違いや課題の複雑さを切り離して音楽の効果を探すことを問い直しています。学習内容が違う研究を、曲があるかないかだけで並べると、結果の読み違いにつながります。家庭でも、まだ知らない単語を覚える作業と、知っている語を含む文章を読む作業は区別して扱います。
Angel ら(2010)は、男女の大学生56人を対象に、速いテンポの音楽と認知課題の成績を実験で調べました。認知課題とは、情報を読み取ったり判断したりする働きを測る課題です。結果は、空間に関する処理の速さと言語に関する処理の正確さが良くなるものでした。音楽に好ましい結果が出た場合も、「どの課題の、速さか正確さか」までそろえて読むことが大切です。
暗記・読解・計算をひとまとめにしない
勉強中の音楽について判断する単位は、教科名より、今している作業に近い方が具体的です。英語でも単語の意味を覚える時と、読んだ文章の内容を判断する時では、答え方が変わります。数学でも計算を進める時と、文章題の条件を読み取る時を分けて考えます。同じ教材を開いていても、音楽との組み合わせを比べるには作業の中身をそろえる必要があります。
Souza ら(2023)では、言葉の記憶や読解と違い、計算への負の効果量 -.19 は、確かな負の効果と評価されませんでした。これは、音楽が計算を良くしたという結果とは区別する必要があります。課題の違いに目を向けると、暗記の結果だけを使って計算中の音楽まで否定する判断も、計算の結果だけで読解中の音楽を認める判断も避けられます。研究で測った範囲を、次のように並べておきます。
| 音楽を流す際の期待 | 記憶や読解への影響 | 音楽研究の対象・設計 |
|---|---|---|
| 歌詞があっても言葉を覚える成績は変わらない | Souza ら(2023)は言葉の記憶と読解への妨げを報告 | 音楽と認知課題を比べる実験 |
| 歌声が入れば言葉の学習は下がる | Jäncke ら(2014)では対照の組との強い差なし | 無作為に組を分けた実験 |
| 慣れていても妨げは同じ | Sun ら(2024)は聴く習慣のある人で妨げが小さいと結論 | 中国東部の大学生の読解実験 |
| 速い曲は考える作業に向かない | Angel ら(2010)は処理の速さや正確さの改善を報告 | 大学生の認知課題の実験 |
慣れと好みは、本人の言葉で別々に聞く
Sun ら(2024)は、中国東部の大学生を、ふだん音楽を聴きながら読む人と聴かない人に分けて扱いました。そのうえで、中国語の曲、英語の曲、音楽なしの条件へ無作為に割り当て、中国語と英語の文章を読む成績を調べています。著者らの結論は、ふだんから音楽を聴きながら読む学生では、背景音楽による妨げがかなり小さいというものです。普段の習慣を聞くことは、結果を理解するうえで意味があります。
ただし、音楽を聴く習慣そのものを無作為に身につけさせた実験ではないため、練習すれば歌詞の妨げを克服できるとは言えません。もともとの読み方や音への反応など、音楽の習慣以外の違いが関わる余地があります。このように、見ている条件とは別の要因が結果を動かすことを交絡と呼びます。「いつも聴いている」という事実は本人を知る材料であって、慣れさせるよう働きかける根拠とは分けます。
家庭での聞き方は、「音楽があった方がいいか」だけで終えず、好きな曲と知らない曲を分けると具体的になります。好きな曲では先の歌詞を頭の中で追うのか、知らない曲では声や音の変化が気になるのかを尋ねます。歌詞の意味を考えてしまう、曲の切れ目でページから目が離れる、といった本人の言葉を受け止めます。こうした聞き取りは、好みの曲が学習に有利だと証明するためではなく、比較する条件を選ぶために使います。
音楽を止めた時の感じも、同じように聞いておきます。静かだと始めにくいのか、始めてしまえば読めるのかで、試す場面は変わります。曲を選ぶ時間と教材を読む時間が混ざっている場合は、先に曲を決めておき、学習中の選曲操作を減らす方法も選べます。
通路では移動を優先し、比較は座れる場所で行う
乗換通路は、音楽の効果を比べるために条件をそろえやすい場所ではありません。人の流れを見て歩き、進む方向を判断することが先にあります。単語帳を開くのは移動が終わってからにし、通行の妨げになる位置で立ち止まらないようにします。乗換に不慣れな子や周囲への注意がそれやすい子には、移動と暗記を重ねる過ごし方は向きません。
歌詞と暗記の相性を試す場所は、まず自宅など落ち着いて座れる場所にします。歩く速さや乗換の不安まで同時に変わると、覚えにくかった理由を話し合いにくくなるためです。騒がしい車内で周囲の音を消そうとして音量を上げる方法は避けます。待っている途中でも移動の準備が必要になったら、単語帳を閉じ、音楽の操作も後に回すという順番を決めておきます。
注意の面では、Shih ら(2012)が歌詞のある音楽による集中や注意の低下を報告しています。学習成績への妨げとして、この結果は覚える数だけでなく、課題に注意を向け続けることを見る理由になります。歌詞のない曲に替えても、本人が落ち着かないと感じるなら、音楽なしを試す選択肢を残します。曲を流すこと自体が負担になる子に、勉強のためとして聴かせ続ける必要はありません。
親子のやり取りでも、好みを否定する言い方は避けたいところです。「その曲を聴くから覚えられない」と先に原因を決めると、本人の手応えや実際の答案が話題から外れます。音楽を楽しむ時間を残したうえで、単語の意味を覚える間だけ条件を替えるなど、作業の区切りに合わせて提案します。帰り道の楽しみと、課題に取り組む方法を別々に相談する形です。
翌日の思い出しと、音楽を使う場面を確かめる
音の条件を比べるなら、歌詞のある曲、歌詞のない曲、音楽なしで、同じ量の単語をそれぞれ覚えてみます。すでに覚えている語が多い組だけ有利にならないよう、本人がまだ答えられない語を選び、難しさも近づけます。学習に使う時間と翌日に答える方法をそろえ、教材を見ずに思い出せた数を比べます。親が正解を教えるタイミングもそろえると、途中で助けた分を音楽の効果と取り違えにくくなります。
結果を見る時は、思い出せた数の横に本人の感想を置きます。「楽しかったけれど歌詞を追っていた」「静かな方が覚えた意味を探しやすかった」など、結果と感覚が同じ向きかを見ます。差が小さければ、急いで勝ち負けをつけず、使いやすさを含めて選びます。眠気や教材の難しさが大きく違った場合は、その違いも含めて親子で振り返ります。
次は、曲を流す場面を「新しく覚える時」と「解き直す時」に分けてみます。最初の暗記では音楽を止め、解き直しでは本人が選んだ音の条件を使うなど、作業の境目を決めます。解き直しでも問題文を読むのに手間取るなら、その場面で曲を止めて確かめます。学習全体で音楽を認めるか禁止するかを決めるより、困った作業を特定して調整します。
家族で新しく決めておきたいのは、比較に使う単語の答え合わせを、本人が答え終わってから行う約束です。途中で表情や声から正解を伝えると、本人だけで思い出せた数が曖昧になります。確認する側は答えを急かさず、終わったあとに誤った語を一緒に見直す役割を引き受けます。
よくある質問
歌詞のない曲なら、暗記中に流してよいですか
比較する候補にはなりますが、本人の思い出しも合わせて見ます。Shih ら(2012)は作業環境では歌詞のない音楽を望ましいとしていますが、Jäncke ら(2014)では歌声や楽器の音楽による言葉の学習への影響がありませんでした。まず音楽なしと比べ、同じ量を覚えた翌日にどれだけ答えられるかを見ます。本人が気になる音を我慢して聴く必要はなく、心地よさも条件を選ぶ材料になります。
本人が集中できると言うなら、その感覚を優先してよいですか
本人の感覚は聞きながら、課題の結果も別に確かめると判断しやすくなります。気持ちよく取り組めるという答えと、単語を覚えやすいという答えを分けて尋ねます。好きな曲と知らない曲で、歌詞を追う感じや読み直しの有無を聞くと、比較する条件が具体的になります。親の印象だけで方法を決めず、本人が答えた内容と思い出せた語を並べて話します。
計算で困らなければ、文章を読む時も同じ曲でよいですか
作業ごとに確かめる方がよいでしょう。Souza ら(2023)では、言葉の記憶や読解への妨げと、計算への影響は異なる結果でした。計算が進むという本人の感覚は、そのまま文章の意味を読み取る時の判断には使わず、文章を読む作業でも確認します。特に読み直しが増える場面があれば、曲を止めた時の読みやすさと、内容を答えられるかを一緒に見ます。
この記事の限界
測定されているのは言葉の記憶、読解、注意、計算などの課題の成績であり、東京の乗換通路で待つ中学生が歌詞を聴きながら覚えた単語の定着を直接調べた研究は見つかりませんでした。大学生や若い成人を含む実験の結果は、通塾中に移動の判断も求められる中学生へ、そのまま当てはめられません。
また、音楽への慣れや曲の種類に加えて、課題の内容と答え方が研究ごとに異なるため、妨げがあった結果と差のなかった結果を両方示しています。家庭での比較は、教材の難しさやその日の眠気にも左右されるため、本人に合う学習環境を選ぶための観察として位置づけています。
参考文献
- Souza AS, et al. Should We Turn off the Music? Music with Lyrics Interferes with Cognitive Tasks. J Cogn. 2023;6(1):24.
- Sun Y, et al. Impact of background music on reading comprehension: influence of lyrics language and study habits. Front Psychol. 2024;15:1363562.
- Shih YN, et al. Background music: effects on attention performance. Work. 2012;42(4):573-578.
- Jäncke L, et al. Verbal learning in the context of background music: no influence of vocals and instrumentals on verbal learning. Behav Brain Funct. 2014;10:10.
- Küssner MB, et al. EEG Beta Power but Not Background Music Predicts the Recall Scores in a Foreign-Vocabulary Learning Task. PLoS One. 2016;11(8):e0161387.
- Angel LA, et al. Background music and cognitive performance. Percept Mot Skills. 2010;110(3 Pt 2):1059-1064.
改札を出てから扉に着くまでの数分が、続くかどうかを決める。
- 向く人: 授業や練習のあと、駅までの帰り道をできるだけ短くしたい人
- 向く人: 通勤や通学の途中の駅で、乗り換えを増やさずに通いたい人
- 向かない人: 駅から離れた場所へ、車の送り迎えで通うことを前提にしたい人
- 向かない人: 移動をせず、自宅だけで学びや運動を済ませたい人
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歌詞のない曲なら、暗記中に流してよいですか
比較する候補にはなりますが、本人の思い出しも合わせて見ます。Shih ら(2012)は作業環境では歌詞のない音楽を望ましいとしていますが、Jäncke ら(2014)では歌声や楽器の音楽による言葉の学習への影響がありませんでした。まず音楽なしと比べ、同じ量を覚えた翌日にどれだけ答えられるかを見ます。本人が気になる音を我慢して聴く必要はなく、心地よさも条件を選ぶ材料になります。
本人が集中できると言うなら、その感覚を優先してよいですか
本人の感覚は聞きながら、課題の結果も別に確かめると判断しやすくなります。気持ちよく取り組めるという答えと、単語を覚えやすいという答えを分けて尋ねます。好きな曲と知らない曲で、歌詞を追う感じや読み直しの有無を聞くと、比較する条件が具体的になります。親の印象だけで方法を決めず、本人が答えた内容と思い出せた語を並べて話します。
計算で困らなければ、文章を読む時も同じ曲でよいですか
作業ごとに確かめる方がよいでしょう。Souza ら(2023)では、言葉の記憶や読解への妨げと、計算への影響は異なる結果でした。計算が進むという本人の感覚は、そのまま文章の意味を読み取る時の判断には使わず、文章を読む作業でも確認します。特に読み直しが増える場面があれば、曲を止めた時の読みやすさと、内容を答えられるかを一緒に見ます。