- 成人の実験では、軽い運動をしながら覚えた単語を後で思い出しやすいという結果が出ています。
- 歩行による変化は課題で異なり、発想の広がりと正解を思い出す力を分けて読む必要があります。
- 小学生の校庭での授業では九九の成績が少し伸びましたが、数を扱う力全体では差が示されませんでした。
- 横断歩道・踏切・階段では唱えるのをやめ、到着後に思い出せた単語と道中の余裕を確かめます。
駅から塾まで徒歩で英単語を唱えて覚える|歩きながら覚える記憶の研究
住宅街の路地を塾へ向かう子が、かばんに単語帳をしまい、さっき見た英単語と意味を小声で繰り返しています。机では気が散るのに、歩いていると口から言葉が出てくるように感じる日もあるでしょう。駅から歩きながら英単語を唱えるのは、座って覚えるより役立ち、安全に続けられるのでしょうか。軽い運動と同時に覚えることが記憶を助けた成人の実験はありますが、通塾中は覚える量より周囲を見る余裕を優先するのが基本です。
「歩くと覚えやすい」という話には、運動する時機、取り組む課題、歩く場所という別々の条件が含まれています。言葉を後で思い出す実験と、自由な発想を出す実験では、良い成績の意味も違います。保護者が確かめたいのは、歩いたという事実よりも、本人が到着後に何を思い出せたか、途中で唱えるのをやめられたかという様子です。路地の角に近づいたら言葉を途中で切り、続きは落ち着いてから再開するという使い方なら、学習の区切りを道の状況に合わせられます。
要点
- 成人の実験では、軽い運動をしながら覚えた単語を後で思い出しやすいという結果が出ています。
- 歩行による変化は課題で異なり、発想の広がりと正解を思い出す力を分けて読む必要があります。
- 小学生の校庭での授業では九九の成績が少し伸びましたが、数を扱う力全体では差が示されませんでした。
- 横断歩道・踏切・階段では唱えるのをやめ、到着後に思い出せた単語と道中の余裕を確かめます。
運動を先にすることと、覚えながら動くことの違い
歩けば頭が働くという話を聞くと、塾まで歩いた日は単語もよく覚えられると考えたくなります。しかし、歩くことが単語を覚える前なのか、覚えている最中なのかで、研究が答えている問いは変わります。運動した後に机で覚える場合と、体を動かしながら言葉を覚える場合を、同じ方法として扱わないことが出発点です。日常でも、移動を終えてから単語帳を開く日と、移動の途中で暗唱する日は分けて振り返れます。
Schmidt-Kassow ら(2013)は、若い成人女性の単語学習について、軽い自転車こぎをしながら覚える条件などを比べました。座って覚える条件との比較では、同時に軽度から中程度の運動をした場合に、その後に新しい項目を思い出す成績が良かったという結果です。著者らは、覚える前に運動した場合には同じ利点が見られなかったと結論づけています。ここで取り上げられているのは、子どもの通塾の習慣ではなく、大人が実験の条件に沿って単語を覚える場面です。
同じ Schmidt-Kassow ら(2013)の追加の分析では、利点は初めの成績が低かった人で特に見られました。この結果を読む際は、平均的な変化と、個々の参加者に起きた変化を分ける必要があります。「初めに苦手なら歩けば伸びる」と子どもに当てはめるより、本人が別の覚え方を試すきっかけとして受け止めるほうが穏当です。覚える前から知っている語が多い日は成績も良くなりやすいため、家庭で比べる際にも単語の難しさに目を向けます。
ゆっくり歩く実験が測ったのは、後から思い出す力
歩行に近い条件を調べたのが、Schmidt-Kassow ら(2014)の実験です。成人がトレッドミルという歩行用の機器の上でゆっくり歩きながら単語を覚えると、後で言葉を思い出す成績が良かったと報告されています。結果は、ごく軽い身体活動でも、覚えている最中に行うことで記憶を助ける可能性を示しました。強く息が上がる運動をしなければ意味がない、という読み方にはなりません。
この研究で注目したいのは、言葉を繰り返している最中の気分だけでなく、その後の記憶を調べた点です。口が滑らかに動き、最後まで言えたときには、もう覚えたように感じることがあります。一方で、同じ並びを唱えることと、意味を尋ねられて対応する英単語を取り出すことは別の作業です。到着後に単語帳を閉じたまま答える場面を設けると、歩いている間の感覚とは別に、学習の結果を見られます。
また、機器の上での歩行と、住宅街を進む歩行では、注意を向ける先が違います。実際の道では、曲がり角の先を見たり、前から来る人との間隔を取ったり、足元の段差に合わせたりします。歩く速さを抑えていても、こうした判断がなくなるわけではありません。単語の発音を直そうとするほど周囲を見る余裕が減るなら、発音の確認は着席して行い、道中はすでに知っている語を軽く思い出す程度にとどめます。
本人に聞くときも、「よく覚えられたか」だけにすると、気分の良さと記憶の良さが混ざります。「意味を思い出せた語」と「音だけ続けていた語」を分けて話してもらうと、どこでつまずくかが具体的になります。言えなかった語をその場で追いかける必要はなく、到着後に単語帳へ戻ればよいのです。道中に答えを出し切ることを目標にしないほうが、途中で暗唱を切り上げやすくなります。
発想と暗記、九九と計算全体を混ぜない
Oppezzo ら(2014)は、成人に座った状態とトレッドミルで歩く状態で課題を行ってもらいました。物の使い道を広く考える課題では、歩行で創造性が高まった参加者は81%でしたが、答えを絞り込む言葉の課題で点数が上がった参加者は23%でした。前者は答えの候補を広げる作業、後者は関連する言葉から正解へ近づく作業です。歩くことで発想が出やすいという結果を、単語の意味も同じように正確に覚えられるという話へ広げるのは早計です。
子どもの学習を調べた Vetter ら(2020)では、都市部の小学校の第3学年172人が、校庭で動く授業と教室の授業に参加しました。条件を偶然に割り付けて順に経験する試験で、九九の成績は校庭の授業のほうが改善し、効果量は0.23でした。効果量は差の大きさを共通の尺度で表す値で、ここでは小さい改善として読む数字です。数を扱う力全体については効果量0.05で、条件間の明確な差は示されませんでした。
これらの結果を並べると、体を動かせば学習全般が良くなるという説明よりも、何を学び、どう測るかが重要になります。九九の授業には内容に合わせた活動があり、路地で英単語を唱える方法とは教材も環境も違います。子どもの学習の例として参考になる一方、英単語の暗唱を直接比べた結果は成人の実験を中心に読む必要があります。次の表は、似て聞こえる主張を、実際に測った課題ごとに分けたものです。
| 歩きながら学ぶことへの期待 | 記憶・発想・九九の結果 | 年齢と実験の場面 |
|---|---|---|
| 動きながらなら言葉を覚えやすい | 同時に軽い運動をすると後の想起が良好 | 若い成人女性の単語学習実験、Schmidt-Kassow ら(2013) |
| 歩くと考える力が全般に上がる | 発想を広げる課題と答えを絞る課題で変化が異なる | 成人の座位・歩行の実験、Oppezzo ら(2014) |
| 子どもも動けば学習が伸びる | 九九には小さい改善、数を扱う力全体には明確な差なし | 小学生の校庭・教室の授業を比べた試験、Vetter ら(2020) |
唱え続けることより、歩行への注意を守る
言葉を覚えることと歩くことを同時に行うと、歩き方そのものにも変化が起こります。Al-Yahya ら(2011)は、歩きながら頭を使う課題を行う研究を集め、結果を統合するメタ分析を行いました。認知課題、つまり記憶や判断など頭の働きを使う課題の影響は、特に歩く速さに表れていました。健康な参加者では、年齢や認知の状態と、同時に課題を行った際の歩行速度の低下に強い関連が示されています。
速さが落ちたという結果は、そのまま事故の発生率を示す数字ではありません。それでも、暗唱中も普段と同じように歩けるという前提を置かず、歩行にも注意が必要だと考える理由になります。思い出せない単語に意識が向き、道の変化に気づくのが遅れる場面を避けることが大切です。周囲を見るために唱えるのをやめることは、練習の失敗ではなく、移動の中で必要な切り替えです。
横断歩道・踏切・駅の階段では、単語が途中でも唱えるのをやめます。信号待ちも、続きを急いで言い切る時間にせず、動き出す合図や周囲の様子を見る時間にします。歩きながらスマホやカードを見る方法は、視線が道から外れるため勧めません。声を使う場合も、近くの人の通行を妨げない小声にとどめ、周囲の音を聞ける状態を保ちます。
曲がり角が続く道、人が多い道、暗くて足元を見づらい道では、暗唱を休む選択が自然です。疲れている子、歩行に不安がある子、言葉に集中すると進む方向への注意が抜けやすい子には、座って覚える方法が合います。ぶつかりそうになったり、段差でつまずきそうになったりしたなら、覚えられた数よりその出来事を重く見ます。親が横にいる場合にも、答えを催促するより、本人が黙って周囲を見られる間を取ります。
同じ数の単語で、到着後に思い出せるかを比べる
試す場合は、歩きながら唱える日と机で覚える日に分け、扱う単語の数をそろえます。出発前や着席時に意味と発音を確かめ、すでに覚えていた語と新しい語を区別しておきます。片方がよく知っている語ばかりなら、後で多く思い出せても、覚え方の違いが理由かどうかを見誤ります。長い語と短い語、身近な意味と初めて知る意味の偏りにも気づける範囲で目を向けます。
塾に着いて落ち着いたら、単語帳を見る前に、思い出せた語と意味を紙に書きます。机で覚えた日にも、学習を終えてから答えるまでの間をなるべくそろえ、同じ形式で確かめます。声で言えれば正解とするのか、つづりまで書けたら正解とするのかも、両方の日でそろえると比較しやすくなります。つづりを測る日は、口では言えた語を別に残すと、何を覚え直す必要があるかも見えます。
結果の横には、暗唱を途中でやめたか、道が混んでいたか、疲れていたかを短く添えます。唱えた回数を増やすために遠回りしたり、中断した分を急いで取り返したりする必要はありません。安全のためにほとんど唱えなかった日も、その道では歩行中の学習を入れにくいと気づく材料になります。点数だけを比べて本人の努力を評価するより、取り組みやすさと道中の余裕を一緒に見る使い方が適しています。
さらに、帰り道の見通しがよく落ち着いた区間では、覚えた単語の並びを後ろから思い出せるか、本人が試す方法もあります。単語の文字を逆さに読むのではなく、最後に覚えた語から順番を逆にして言います。いつもの並びでないと出てこない語があれば、到着後に意味との対応を確かめ直します。難しくて周囲への注意が薄れるならその場で切り上げ、帰宅後に座って続きを行います。
地図の印を、本人が止まれる目印に変える
暗唱を試す前に、親子で通る道の地図を見て、唱えるのをやめる場所に印をつけます。横断歩道・踏切・階段に加え、見通しの悪い角や、人が合流してくる場所も本人から挙げてもらいます。地図上ではまっすぐな道でも、実際には出入り口が続き、前を見ることに集中したい区間があります。親が知っている危険箇所を教えるだけでなく、本人が歩きづらいと感じる場所も書き足すと、普段の移動に沿った地図になります。
印は通過してから気づく場所より、その手前で見つけられる物を頼りにします。角を曲がって初めて見える物を目印にすると、注意を切り替えるのが遅くなるためです。周囲が混んでいる日は、地図に書いた区間でも唱えずに歩きます。地図の色や印は暗唱を続ける義務を示すものではなく、早めにやめる場所を思い出すために使います。
子どもが「ここからは黙る」と自分で言えるかを、実際の道で確かめると、地図の印と行動がつながります。単語の途中で止まった後、続きを忘れてしまっても、その場で思い出すよう求めないことが大切です。学習の続きより先に、角の向こうや進む先を見られたことを確かめます。到着後には、止まりにくかった場所や目印を見落とした場所を振り返り、地図の印を手前へ移すなどして使いやすくします。
最後に、道を「唱えてよい区間」と「黙って前を見る区間」に分けた境目を、単語帳の表紙に短く書きます。「曲がる手前の角から黙る」のように、本人が現地の景色を思い出せる言葉を選びます。表紙は出発前に開き、どの目印で言葉を止めるかを本人が指で示します。単語の暗唱を始める前に、その境目が頭に浮かぶ状態を整えます。
よくある質問
座るより歩くほうが覚えやすいなら、机の勉強を減らしてよいですか
歩いている間には、言える語を思い出す作業を置き、机ではつづりや意味の取り違えを確かめるなど、役割を分けると使いやすくなります。成人の実験で見られた記憶の利点だけを理由に、子どもの着席した学習を減らす判断はしません。到着後の答えを見て、口では言えたのにつづりが出ない語や、似た意味と混ざった語を机に戻して確かめます。本人が座るほうを好むなら、その方法を続けて構いません。
歩きながら言葉に詰まったら、どうすればよいですか
詰まった単語はそこでいったん手放し、周囲を見ることに戻ります。道中に答えを出そうと粘るより、到着後に単語帳を開いて確かめる形にすると、移動中の切り替えがしやすくなります。保護者が一緒でも、続けてヒントを出して考えさせる必要はありません。単語が出なかった場所と、人や車に注意したかった場所が重なっていたかを、落ち着いてから本人に聞くと、暗唱を休む区間の見直しにもつながります。
帰り道に逆の順番で言えなければ、覚えていないのでしょうか
順番を変える作業には、普段どおりに唱えることとは違う難しさがあります。逆順で詰まったことだけで、単語の意味を覚えていないと判断せず、座ってから個々の語を取り出せるかを確かめます。意味を見て英単語を答える場合と、英単語を見て意味を答える場合も分けると、つまずきの場所が具体的になります。逆順の暗唱は競争にせず、道への注意を保てる範囲で終えるのが扱いやすい方法です。
この記事の限界
対象は成人の単語学習実験や小学生の校庭での授業が中心で、子どもが駅から塾まで英単語を唱えた場合の記憶と安全を一緒に測った研究は、ここで取り上げた論文には含まれていません。扱う課題も単語、発想、九九と異なり、到着後に正解できた語が増えることと、授業や試験全体の成績が上がることは分けて考える必要があります。
大人の実験と子どもの授業の結果を通塾に結びつけるには、年齢に加えて、声を出す方法、覚えてから答えるまでの間隔、歩行に必要な注意の違いを検討する余地があります。実験室や校庭で得た記憶の結果を、騒音や信号待ちが重なる通塾の道へ移して考えるには、周囲へ注意を向ける負担も含む検証が求められます。
参考文献
- Schmidt-Kassow ほか. Physical exercise during encoding improves vocabulary learning in young female adults: a neuroendocrinological study. PLoS One. 2013;8(5):e64172.
- Schmidt-Kassow ほか. Treadmill walking during vocabulary encoding improves verbal long-term memory. Behav Brain Funct. 2014;10:24.
- Oppezzo ほか. Give your ideas some legs: the positive effect of walking on creative thinking. J Exp Psychol Learn Mem Cogn. 2014;40(4):1142-1152.
- Vetter ほか. ‘Maths on the move’: Effectiveness of physically-active lessons for learning maths and increasing physical activity in primary school students. J Sci Med Sport. 2020;23(8):735-739.
- Al-Yahya ほか. Cognitive motor interference while walking: a systematic review and meta-analysis. Neurosci Biobehav Rev. 2011;35(3):715-728.
改札を出てから扉に着くまでの数分が、続くかどうかを決める。
- 向く人: 授業や練習のあと、駅までの帰り道をできるだけ短くしたい人
- 向く人: 通勤や通学の途中の駅で、乗り換えを増やさずに通いたい人
- 向かない人: 駅から離れた場所へ、車の送り迎えで通うことを前提にしたい人
- 向かない人: 移動をせず、自宅だけで学びや運動を済ませたい人
このサイトは武蔵野個別指導塾とオンザショア立川店の運営者が制作しています。武蔵野個別指導塾は駅から徒歩30秒の完全1対1、オンザショア立川店は駅から徒歩1分で、床は溶岩プレートです。
座るより歩くほうが覚えやすいなら、机の勉強を減らしてよいですか
歩いている間には、言える語を思い出す作業を置き、机ではつづりや意味の取り違えを確かめるなど、役割を分けると使いやすくなります。成人の実験で見られた記憶の利点だけを理由に、子どもの着席した学習を減らす判断はしません。到着後の答えを見て、口では言えたのにつづりが出ない語や、似た意味と混ざった語を机に戻して確かめます。本人が座るほうを好むなら、その方法を続けて構いません。
歩きながら言葉に詰まったら、どうすればよいですか
詰まった単語はそこでいったん手放し、周囲を見ることに戻ります。道中に答えを出そうと粘るより、到着後に単語帳を開いて確かめる形にすると、移動中の切り替えがしやすくなります。保護者が一緒でも、続けてヒントを出して考えさせる必要はありません。単語が出なかった場所と、人や車に注意したかった場所が重なっていたかを、落ち着いてから本人に聞くと、暗唱を休む区間の見直しにもつながります。
帰り道に逆の順番で言えなければ、覚えていないのでしょうか
順番を変える作業には、普段どおりに唱えることとは違う難しさがあります。逆順で詰まったことだけで、単語の意味を覚えていないと判断せず、座ってから個々の語を取り出せるかを確かめます。意味を見て英単語を答える場合と、英単語を見て意味を答える場合も分けると、つまずきの場所が具体的になります。逆順の暗唱は競争にせず、道への注意を保てる範囲で終えるのが扱いやすい方法です。