- 繰り返す腹痛で受診した子では、不安症が多く見られた研究があります。
- 不安が強いことだけでは、体の病気が関係する腹痛と区別できません。
- 心理療法の研究でも、痛みの改善と不安の改善は同じ結果ではありませんでした。
- 血便、発熱、体重が減る、夜中に痛みで目が覚める、吐くといった症状は小児科で相談します。
- 痛む朝と痛まない朝の予定を並べ、模試の日に乗換駅のトイレへ寄る流れを確かめます。
受験の朝に乗換駅でおなかが痛くなる子|ストレスと腹痛の研究
朝の改札を通り、乗換の案内を見上げたところで、子どもが「おなかが痛い」と足を止めます。模試の集合時刻が気になり、保護者はトイレの表示と時計を交互に見てしまいます。家では準備を進めていたのに、試験へ向かう途中で痛みが出ると、緊張に耐えられないのだろうかと心配になる場面です。模試や受験の朝におなかが痛くなる子は、受験に向いていないのでしょうか。
腹痛は受験への向き不向きを測る物差しではなく、体の症状と不安の両方に目を向けるきっかけです。 子どもの腹痛と不安には研究上の関連がありますが、不安そうだから痛みの原因も心にある、と決めつける読み方には問題があります。痛みが起きた場面を聞くことと、体の病気について小児科で相談することは、どちらかを選ぶ関係ではありません。
朝の準備では、子どもを励まして電車に間に合わせることだけに意識が向きがちです。その前に、試験のない朝にも痛むのか、食事や出発の流れに違いがあったのかを、本人の言葉から拾えます。研究の対象と結果を分けて読むと、家庭で聞くこと、医療機関で相談すること、移動の段取りとして試すことが見えてきます。
要点
- 繰り返す腹痛で受診した子では、不安症が多く見られた研究があります。
- 不安が強いことだけでは、体の病気が関係する腹痛と区別できません。
- 心理療法の研究でも、痛みの改善と不安の改善は同じ結果ではありませんでした。
- 血便、発熱、体重が減る、夜中に痛みで目が覚める、吐くといった症状は小児科で相談します。
- 痛む朝と痛まない朝の予定を並べ、模試の日に乗換駅のトイレへ寄る流れを確かめます。
腹痛と不安の関連は、受診した子の比較から見えてきた
「試験が嫌だから痛くなるのでは」という見方は、痛みと不安が重なる場面から生まれます。ただ、研究で扱う不安症は、その朝に緊張したという意味より広く、診断の基準に沿って評価された状態です。子どもが「心配」と話したことと、不安症の診断を受けることは分けて読んだほうがよいでしょう。研究の割合を、改札で痛みを訴えたわが子の診断に置き換えるのは早計です。
Campo ら(2004)は、小児科の診療で見つかった8〜15歳の子を対象に、繰り返す腹痛のある42人と、繰り返す痛みがなく通常の診療を受けた38人を比較しました。このように症状のある組と比較する組を調べる方法を、症例対照研究といいます。腹痛のある組では33人、79%に不安症の診断があり、比較する組より不安や抑うつの症状、生活上の支障が大きいという結果でした。不安を伴う子では、腹痛より不安の始まりが早い傾向も見られました。
Dufton ら(2009)は、繰り返す腹痛のある子、不安症のある子、痛みも不安もない子を各21人ずつ比べました。腹痛のある子の67%が不安症の基準を満たし、不安などの症状は健康な子より強い一方、不安症の組との差は明確ではありませんでした。こちらも、腹痛と不安が近い関係にあるという結果です。どちらの研究も、入試へ向かう朝に緊張を与えて痛みが出るかを試した実験ではなく、子どもの状態を比較した観察研究です。
保護者がここから持ち帰れるのは、痛みの話を聞くときに心配事も尋ねるという視点です。「試験が嫌なの」と理由を先に決めるより、「痛くなったとき、何が気になっていた」と聞くほうが、本人の説明を残せます。遅れる心配と試験問題への心配が混ざっているなら、それぞれ別に書きとめます。痛みを訴えたことへの評価を挟まず、本人が困っている内容を聞くところから始めます。
多い症状であることと、その子の将来は別に考える
繰り返す腹痛の研究では「機能性」という言葉が出てきます。これは、痛みを説明する体の病変だけでは捉えきれない、おなかの働きに関わる不調を指す言葉です。「気のせい」や「本人が作った痛み」という意味ではありません。家庭で不安の有無を確かめただけで、この分類をつけることもしません。
Vermeijden ら(2025)は、4〜18歳の子どもについて、29か国、201,134人を含む66本の研究をまとめました。複数の研究を統合するメタ分析で、機能性の腹痛に関わる疾患全体の推定割合は11.7%でした。推定の幅を示す95%信頼区間は10.5%〜13.1%で、心理的なストレスのある子で多いと著者らは結論づけています。地域や学校などで行われた調査を合わせた結果なので、受診した子だけの比較とは対象の集め方が違います。
長い目で見た関係も調べられています。Shelby ら(2013)は、機能性の腹痛がある小児患者332人と比較対象147人を、その後の思春期から若い成人期まで追跡しました。追跡時の平均年齢は20.01歳で、その時点の不安症は腹痛のあった組で30%、比較対象で12%でした。著者らは、腹痛が治まっても不安へのなりやすさが続くと結論づけています。
この結果を見て、腹痛のある子の将来が決まったと受け取る必要はありません。研究が示すのは集団での違いであり、目の前の子が今、何に困っているかを聞く余地は残っています。痛みが消えた日に「もう何も心配はない」と話を閉じず、学校や模試へ向かう気持ちも聞けます。受験を続けるかどうかの話は、本人の希望、学習の負担、生活への支障を具体的に並べて進めるほうが、腹痛の有無だけで性格を評するより役に立ちます。
不安が見えても、体の病気を除外したことにはならない
痛みが試験の日に重なると、周囲は原因をストレスに絞りたくなります。しかし、体に病気がある子も不安を感じますし、痛みそのものが心配の種にもなります。そこで参考になるのが、腹痛の原因となる体の病変が見つかった子と、見つからなかった子を比べた研究です。心の状態を聞くことと、体の状態を診てもらうことを一緒に考える理由になります。
Walker ら(1989)は、原因となる体の病変が特定されない繰り返す腹痛の患者41人、主に潰瘍に関わる病変があった患者28人、健康な比較対象41人を調べました。著者らの結論は、心理的なつらさでは、腹痛の原因となる病変がある患者とない患者を見分けられないというものでした。保護者にとっては、不安そうな様子を見ただけで体の病気を否定しない、という意味を持ちます。研究の問いと、家庭でつい考えてしまう説明を並べると、違いがはっきりします。
| 腹痛から推測しがちなこと | 痛みと不安の研究結果 | 患者の比較と試験の内容 |
|---|---|---|
| 腹痛がある子は、単に試験を嫌がっている | Campo ら(2004)は、繰り返す腹痛で受診した子に不安症が多いと報告 | 小児科での症例対照研究 |
| 不安が強ければ、体の病気ではない | Walker ら(1989)は、心理的なつらさで病変の有無を区別できないと結論 | 腹痛の患者群と健康な比較対象の観察 |
| 痛みが改善すれば、不安も同じように改善する | Huang ら(2024)は、心理療法で痛みへの効果と不安への効果が異なると報告 | 子どもの機能性の腹痛に対する試験の統合 |
血便、発熱、体重が減る、夜中に痛みで目が覚める、吐くといった症状がある場合は、小児科を受診します。その場では「緊張する子だから」と説明をまとめず、いつから何が起きているかを伝えます。こうした症状がなくても、腹痛を繰り返して登校や食事、模試への参加に支障があるときは、小児科で相談する内容になります。朝の段取りの工夫だけで抱え込むより、生活のどこが難しくなっているかを具体的に伝えることが大切です。
心理療法の研究は「落ち着けば治る」とは違う
腹痛と不安が関連すると聞くと、「緊張しないようにすればよい」と考えるかもしれません。けれども、本人に気持ちの切り替えを求める声掛けと、医療機関で行う心理療法は別のものです。認知行動療法は、考え方や行動のパターンを扱う心理療法の一つです。その研究を読むときも、痛み、不安、日常生活の支障のうち、何が変わったかを分けます。
Huang ら(2024)は、機能性の腹痛がある子ども1,187人を含む10本の無作為化比較試験をまとめました。無作為化とは、受ける方法の組分けを偶然に任せ、組どうしの偏りを減らす手続きです。認知行動療法は比較対象より、痛みの強さや日常生活の支障を減らし、生活の質を改善する結果でした。一方、通常の治療と比べた不安、抑うつ、消化器の症状の差は明確ではありませんでした。
痛みが軽くなることと、不安の尺度の点が下がることは、同じ変化ではありません。試験の結果を「不安さえ取れば腹痛がなくなる」と読み替えると、この違いが抜け落ちます。また、家庭で行う励ましを、研究で使われた心理療法と同じものとして扱うこともできません。心理的な支援を考えるときは、子どもの腹痛について医療機関で相談し、本人の状態に合う方法を尋ねます。
保護者の聞き方にも、結果を急がない余地があります。「大丈夫になった」と答えることを求めるより、痛みがあって困った行動を具体的に聞けます。たとえば、電車に乗る前にトイレを探したのか、試験中も席を離れることが気になったのかでは、相談したい内容が変わります。気持ちの問題だと決めて受診を遅らせたり、痛みを隠して移動させたりすることは避け、症状と生活の支障を同じ話の中に置きます。
痛む朝と痛まない朝を、同じ項目で並べる
家庭で振り返るときは、痛かった日の出来事だけを集めないようにします。痛みが出なかった模試の日や、学校へ普段どおり向かった朝も並べると、予定の違いを具体的に話せます。紙の左右にその日の朝を置き、起きた時刻、朝食、家を出た時刻を同じ順で書きます。思い出せない所は埋めず、家族が覚えていることと本人の話を分けて残します。
朝食は、食べたかどうかだけでなく、どんな物をどのような流れで食べたかを言葉にします。出発時刻だけを早めたつもりでも、起床や食事まで慌ただしく変わっていれば、その違いが見えます。痛まなかった朝に共通する段取りがあれば、試してみたい候補として挙げられます。ただし、並べた記録を使って食べ物や不安を腹痛の原因と断定したり、自己流の食事制限につなげたりはしません。
次に、痛む場面が試験の日だけなのか、学校のある朝にもあるのかを本人に聞きます。「学校へ行く日は平気だよね」と答えを含めず、「学校の日はどんな感じ」と尋ねます。家にいる間、電車の中、乗換のとき、会場に着いた後というように、本人が思い出した順に話してもらえます。保護者が見た表情より、どこで何に困ったという本人の説明を中心に置きます。
この振り返りを、毎朝の検査のようなやりとりにする必要はありません。話したくないときに理由を繰り返し尋ねるより、落ち着いて話せる場面で、覚えている範囲を聞きます。受診時には、痛みの強さだけでなく、登校をためらった、朝食が進まなかったなどの支障も伝えられます。予定の比較と本人の言葉がそろうと、「いつも緊張する」という大きな説明よりも、相談する内容が具体的になります。
模試の移動で、トイレへ寄る時間を確かめる
乗換駅で困るのは、痛みだけでなく、トイレの場所や戻る道がすぐに浮かばないことです。模試の朝には、使う予定の駅でトイレの案内を本人と見ておきます。駅の設備や利用できる場所は、鉄道会社などの最新の案内で確かめます。画面の案内だけで済ませず、実際にどちらへ向かうのかを知ることが、移動の準備になります。
下見では、保護者が場所を把握するだけでなく、子ども自身が案内表示を見つけられるかも見ます。改札の内側か外側か、トイレへ向かった後に乗換の方向へ戻れるかを、その場で確かめます。目的は速く歩けることを示すことではなく、途中で寄り道する行程を予定の中に入れることです。痛みのない日に場所を見ておけば、痛みが出た瞬間に説明を重ねる場面を減らせます。
家庭の予定表には、会場へ直行する流れと、乗換駅でトイレへ寄る流れを並べてみます。実際に寄った際の混み具合や戻り道も本人と振り返り、乗換だけを想定した予定との差を見ます。こうした下見は体調のよいときに行い、具合が悪い朝に予定の検証を優先しません。受験を続けられるかを試す行事にせず、移動の途中に必要な行動を置けるかを見るために使います。
本番の朝を想定した出発時刻で家を出る模試の日を設け、乗換駅ではトイレへ寄るところまで含めて動いてみます。確かめたいのは、トイレの場所を知っているかだけでなく、そこへ寄ってから会場へ向かっても慌てない出発時刻かどうかです。模試が終わった後、本人が急ぐと感じた区間を予定表に書き足します。本番用の出発時刻は、その実際の行程にトイレへ寄る余地があったかを見て調整します。
よくある質問
模試の日だけ痛むなら、ストレスが原因ですか
試験の日に重なることは、医療機関で伝える大切な情報です。ただ、日程との重なりだけで痛みの原因を決めず、痛みが始まった場所や続き方、ほかの症状も一緒に伝えます。学校のある朝や休日にはどうだったかも本人に聞くと、話が具体的になります。不安の話を聞きながら体の症状も扱うことが、心か体かのどちらかに早く決めるより大切です。
不安そうなので、受験をやめたほうがよいですか
腹痛だけを受験への適性判定に使わず、本人が受験をどう考えているかと、生活の支障を別々に聞きます。学習を続けたい気持ちがあっても、朝の移動には困っている場合があります。痛みを我慢できるかではなく、食事や登校、学習のどこが難しいかを小児科でも相談できます。進路の話をするときも、腹痛を訴えたことが本人への否定にならないように扱います。
トイレを下見したのに痛くなったら、準備の失敗ですか
下見で確かめるのは、痛みが出ないかではなく、トイレの場所と移動の余裕です。痛みが出ても、迷わず寄れたことと症状そのものは分けて振り返れます。待つ時間が想定と違ったなら予定を調整し、腹痛が繰り返されることは小児科で相談します。痛まなかった日だけを成功とせず、本人が途中で困ったことを言葉にできたかも、振り返る内容に入れられます。
この記事の限界
対象は、繰り返す腹痛で受診した子どもや、学校・地域の調査に参加した子どもで、痛みの程度や診断の基準、比較する組の条件が異なります。腹痛と不安が重なるという観察結果から、個々の子の痛みを受験のストレスが引き起こしたと結論づけたり、受験への適性を判定したりすることはできません。
心理療法の試験で扱う支援と、家庭で朝の予定を並べることや駅のトイレを下見することは異なり、下見による腹痛の予防効果はここで扱った研究の評価対象に入っていません。受診した子や地域の子の結果を、受験の朝だけ痛む子へ適用するには隔たりがあり、乗換駅や電車内で起きる腹痛は今後調べるべき場面として残ります。
参考文献
- Campo ほか. Recurrent abdominal pain, anxiety, and depression in primary care. Pediatrics. 2004;113(4):817-824.
- Dufton ほか. Anxiety and somatic complaints in children with recurrent abdominal pain and anxiety disorders. J Pediatr Psychol. 2009;34(2):176-186.
- Vermeijden ほか. Epidemiology of Pediatric Functional Abdominal Pain Disorders: A Meta-Analysis. Pediatrics. 2025;155(2):e2024067677.
- Shelby ほか. Functional abdominal pain in childhood and long-term vulnerability to anxiety disorders. Pediatrics. 2013;132(3):475-482.
- Walker ほか. Children with recurrent abdominal pain and their parents: more somatic complaints, anxiety, and depression than other patient families? J Pediatr Psychol. 1989;14(2):231-243.
- Huang ほか. Effect of cognitive-behavior therapy for children with functional abdominal pain: a meta-analysis. BMC Gastroenterol. 2024;24(1):62.
改札を出てから扉に着くまでの数分が、続くかどうかを決める。
- 向く人: 授業や練習のあと、駅までの帰り道をできるだけ短くしたい人
- 向く人: 通勤や通学の途中の駅で、乗り換えを増やさずに通いたい人
- 向かない人: 駅から離れた場所へ、車の送り迎えで通うことを前提にしたい人
- 向かない人: 移動をせず、自宅だけで学びや運動を済ませたい人
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模試の日だけ痛むなら、ストレスが原因ですか
試験の日に重なることは、医療機関で伝える大切な情報です。ただ、日程との重なりだけで痛みの原因を決めず、痛みが始まった場所や続き方、ほかの症状も一緒に伝えます。学校のある朝や休日にはどうだったかも本人に聞くと、話が具体的になります。不安の話を聞きながら体の症状も扱うことが、心か体かのどちらかに早く決めるより大切です。
不安そうなので、受験をやめたほうがよいですか
腹痛だけを受験への適性判定に使わず、本人が受験をどう考えているかと、生活の支障を別々に聞きます。学習を続けたい気持ちがあっても、朝の移動には困っている場合があります。痛みを我慢できるかではなく、食事や登校、学習のどこが難しいかを小児科でも相談できます。進路の話をするときも、腹痛を訴えたことが本人への否定にならないように扱います。
トイレを下見したのに痛くなったら、準備の失敗ですか
下見で確かめるのは、痛みが出ないかではなく、トイレの場所と移動の余裕です。痛みが出ても、迷わず寄れたことと症状そのものは分けて振り返れます。待つ時間が想定と違ったなら予定を調整し、腹痛が繰り返されることは小児科で相談します。痛まなかった日だけを成功とせず、本人が途中で困ったことを言葉にできたかも、振り返る内容に入れられます。