- 年齢をまたぐ親切の試験をまとめると、行った人の幸福感への効果は小〜中程度でした。
- 子どもの試験には、幸福感が比較した両群で改善し、親切の群で仲間に受け入れられる度合いが大きく上がった結果があります。
- 思春期の試験では全体に差が出ず、もともとの利他性や実行の程度に応じた違いが報告されています。
- 家族への手助けと見知らぬ人への手助けでは、幸福感との関連の現れ方が異なりました。
電車で席を譲る中学生|親切な行動と子どもの幸福感の研究
人に親切にすると中学生本人の気分もよくなるのでしょうか、それとも親に言われて席を譲るだけでは変わらないのでしょうか。中央線のホームで子どもを迎えたとき、保護者には、帰り道で周囲の人に目を向けられたか気になることもあるでしょう。階段へ向かう途中に席を譲った話が出れば、子どもの声や表情からうれしさを感じ取ることもあるでしょう。ただ、その場で口にする「よかった」と、毎日の生活をどう感じているかという幸福感には、測る時間の幅があります。

親切の研究には、人を助ける行動を一定期間続けてもらう試験や、誰を助けたかと幸福感を追っていく調査があります。比べる相手も、普段の状態で過ごす群や別の活動をする群など、研究によって異なります。親が知りたいのは、席を譲ったかどうかに加え、子どもが自分で行動を選べたか、疲れを押していなかったか、帰り道をどんな気分で過ごしたかという点でしょう。親切は本人の幸福感につながる可能性がありますが、子どもの試験では全体の差が出ない結果もあり、席を譲れば気分がよくなると約束できるものではありません。
要点
- 年齢をまたぐ親切の試験をまとめると、行った人の幸福感への効果は小〜中程度でした。
- 子どもの試験には、幸福感が比較した両群で改善し、親切の群で仲間に受け入れられる度合いが大きく上がった結果があります。
- 思春期の試験では全体に差が出ず、もともとの利他性や実行の程度に応じた違いが報告されています。
- 家族への手助けと見知らぬ人への手助けでは、幸福感との関連の現れ方が異なりました。
親切をすると幸せになる、という平均の大きさ
「人に親切にすれば自分もうれしくなる」という言葉には、研究による支持があります。Curry ら(2018)は、親切な行動をすることが本人の幸福感に及ぼす効果を調べた27件、合計4045人の研究をまとめました。これは複数の研究の結果を統計的に統合するメタ分析で、全体の効果はδ = 0.28という小〜中程度の大きさでした。δは効果量と呼ばれる、異なる測定で得られた差を共通の尺度で表す値です。
Curry ら(2018)の対象は年齢をまたいでおり、この平均値は中学生だけの成績表ではありません。親切をした人と各試験の比較相手との違いをまとめた数字で、幸福感を測る尺度上での変化を表しており、車内で相手からお礼を言われた回数を数えた値ではありません。研究の対象者の国や年齢の内訳、個々の試験の期間は、ここで扱う結果には示されていません。著者らは、好ましい結果の研究に公表が偏る傾向を示す兆候はなかったと報告しています。
たとえば車内で席を譲ったあとに子どもが静かに窓を見ていても、その表情を平均の効果と照らして採点することはできません。席が必要そうな人に声をかけるまでのためらいや、相手に断られたときの戸惑いも、実際の移動には含まれます。帰宅後に「うれしかったはず」と保護者が感想を先に言うと、子どもが話すはずだった別の感情を聞き落とすかもしれません。平均の小さな改善は期待の強さを調整する材料にして、行動のあとに出てくる言葉をそのまま受け取る余地を残します。
幸福感が上がったのは親切の群だけか
子どもの研究で目を引くのが、Layous ら(2012)のバンクーバーの19教室、9〜11歳を対象とした試験です。週に3回の親切な行動をする条件と、週に3か所を訪ねる条件を、4週にわたって比べました。幸福感は両方の条件で改善し、親切をした子どもたちでは、仲間に受け入れられる度合いの増加が大きいという結果でした。「親切をした群の幸福感が上がった」という部分を読むときには、訪問の群でも改善したことまで含めて受け止めます。
Layous ら(2012)が比較した訪問の条件にも、行動する予定があります。何もしない子どもと比べて、親切な子どもだけに変化が起きたという設計ではありません。また、仲間に受け入れられる度合いとは、周りの子どもとの関係にかかわる指標です。自分が生活をどう感じるかという幸福感と、周囲が自分をどう受け入れるかの両方を測った点が、この研究の特徴です。
学校での取り組みには別の結果もあります。Petruța ら(2025)は、10〜12歳の120人を対象とする学校での介入を扱い、3か月に24回の活動を行いました。介入群では開始前と比べ、利他的な行動、依頼に応じて人を助ける行動、幸福感が増え、対照群では変化がありませんでした。ここに示されているのは、まとまった学校の活動を実施した前後の結果です。
教室で周囲と関わる機会と、電車でたまたま隣り合う人に席を譲る機会では、相手と会う頻度も行動の続き方も変わります。たとえば同級生の落とした筆箱を拾えば、その後も同じ教室で過ごしますが、降車する人に道を空けたら接点はその場で終わります。取り上げた研究には、東京の通塾中の車内で席を譲る行為を試験したものはなく、扱うのはもっと幅のある親切です。親子の会話で学校での出来事も候補に入れると、子どもが思い出せる行動の種類が増えます。
思春期の試験で全体の差が出なかった理由を読む
年齢が近い試験を見ると、「やれば気分が上向く」という見込みには幅があります。Tashjian ら(2021)は14〜17歳の97人を対象に、週に3回、4週にわたる取り組みを行いました。条件を偶然に割り当てて比べる無作為化比較試験ですが、幸福感の時間に伴う変化には、全体として条件間の差がありませんでした。一方、もともと人のために行動する傾向である利他性が高い子では、他者への親切の条件で肯定的な感情が増え、否定的な感情とストレスが減りました。
Binfet ら(2019)も、6〜8学年の383人を対象とする無作為化比較試験で、週に3回の親切を計画して実行する4週の取り組みを扱っています。終了時に測った幸福感の指標のいずれにも、介入群と対照群の有意差はありませんでした。有意差がないとは、この比較で偶然のばらつきでは説明しにくい差を検出しなかったという意味です。この結果は、子どもに親切の予定を渡せば一様に幸福感が伸びるという期待を支えていません。
Binfet ら(2019)では、取り組みの実行が60%未満だった参加者が87人と報告されています。実行の程度が高かった子どもたちは、自己申告の否定的な感情が最も低く、他者への親切の自己評価が最も高いという結果でした。ただし、実行した量で後から分けた比較なので、回数を増やすことが感情の改善を生んだという因果関係までは示しません。取り組みを渡した段階と、本人が実際に行った段階の両方に目を向ける結果です。
通う日の朝に親切の回数を話すなら、保護者が予定を埋める前に、本人が取り組める回数を選ぶ形にできます。たとえば学校とかばんの準備で手いっぱいの日に、電車の中でも達成する課題を追加する必要はないでしょう。子どもが「帰ってから食器を運ぶ」と具体的な行動を挙げたら、その予定を聞いておきます。食器を運ぶなら食卓にいる家族とタイミングを合わせるなど、選んだ行動をその日の予定に収めます。
見知らぬ人への手助けと家族への手助け
電車での親切には、ふだん接点のない相手との短い関わりが含まれます。Ju ら(2025)は中国の思春期の子ども514人を、6か月間隔の3時点で調べました。平均年齢は13.75歳で、家族への手助けには、楽しさや快さにかかわる幸福感と、意味や充実にかかわる幸福感の両方との正の相互関係がありました。見知らぬ人への手助けでは、幸福感との直接の相互関係は見られませんでした。
Ju ら(2025)では、どちらの種類の幸福感も、その後の見知らぬ人への援助行動を予測していました。つまり、知らない人を助けたら気分がよくなるという向きばかりを想定すると、この結果の一部を取り落とします。これは行動を割り当てずに追った観察研究なので、もともとの人間関係や生活の様子も考慮する余地があります。相手ごとに報告された関係を並べると、親切の効果をひとまとめにした説明では見えにくい違いがあります。
| 親切に期待する変化 | 幸福感や受け入れの結果 | 行動を比べた参加者 |
|---|---|---|
| 親切をすれば幸福感が伸びる | Curry ら(2018)では平均に小〜中程度の効果 | 年齢をまたぐ研究の統合 |
| 子どもには一様に効く | Tashjian ら(2021)では全体の差なし、利他性による違い | 思春期の無作為化比較試験 |
| 親切の活動だけで気分がよくなった | Layous ら(2012)では比較の活動でも幸福感が改善 | バンクーバーの子どもの試験 |
| 相手が誰でも同じ関係がある | Ju ら(2025)では家族と見知らぬ人で結果が異なる | 中国の子どもの追跡調査 |
恵比寿の塾へ通う子のやる気や目標と親切の接点
帰宅して問題集を開く気力まで、席を譲った日の出来事に期待したくなることもあるでしょう。机に向かうこと、人との関わりを心地よく感じること、学校の仲間に受け入れられることは、日常では同じ日に重なって起こります。Layous ら(2012)が報告したのは幸福感と仲間からの受け入れの変化で、テストの得点が上がったという結果ではありません。夕食のあとに機嫌よく話せた日でも、その晩の宿題の進み方には、課題の難しさや残っている量という具体的な条件があります。
親切に学習の成果を結びつけた約束をすると、期待どおりに問題集が進まなかったときに、親切まで失敗と感じさせるおそれがあります。家の机で確認する内容は、解いた問題やつまずいた箇所として扱えます。車内で相手に声をかけた出来事には、何と言ったか、相手がどう応じたかという、その行動自体の内容があります。会話の途中で成績の話へ移る前に、子どもが話し始めた出来事を最後まで聞くことはできます。
また、電車で疲れている日は、無理をしない日として座ったままでよいと伝えます。体調がすぐれない子や、立つことに不安がある子に、幸福感を高める課題として席を譲らせる方法は向きません。足元が不安定な状態で急に立つ、荷物を抱えたまま人の間を移動するといった場面では、転倒やぶつかる危険にも注意が要ります。譲れなかったことを責めず、相手に断られたときも、その返事を受け止めて座り直せるようにしておきます。
車内での親切を考えるときは、相手が移動する場所にも目を向けます。座席の前にかばんがあれば、立ち上がって声をかけても、相手が腰を下ろすまでの動きを妨げます。親が近くにいるなら、子どもの肩越しに指示を出す前に、自分が席を譲ることもできます。子どもには立てる人が行動する様子を見せ、帰りの移動を続けます。
帰りのホームで、その日の出来事を聞く
授業を終えて電車を降りたら、ホームの端や乗り降りする人の流れを避けた場所で、親子の会話を短く始められます。今日だれかの役に立ったことを振り返る会話には、学校で友だちに忘れ物を知らせたことや、帰宅後の手伝いも入ります。車内の出来事が思い当たらないという返事なら、その日の話題をそこで終えて歩き出します。親が先に見つけた行動を答えさせる形にしないことも、家庭で試せる聞き方です。
具体的な話が出たら、本人が使った言葉を会話の手掛かりにします。「助かったと言われた」という話なら、その言葉を聞いた場面まで話してもらえますし、「声をかけるのが恥ずかしかった」なら、そのためらいも話題になります。声が車内の音に埋もれたのか、相手の顔を見て言葉が出なかったのか、本人が覚えていればその様子も聞けます。席を空けた相手が気づかなかった話や、会釈をしてくれた話では、子どもの受け止め方も違うかもしれません。保護者が「それはうれしかったね」と感想を決める前に、子どもの話が続くのを待ちます。
たとえば家族の茶碗を運んだことが話題に出たら、食卓が片づいたあとに何が起きたかにも会話は広がります。手が空いた家族が一緒にテレビを見た、食器を洗うのを手伝ってくれたなど、本人が覚えている場面を聞けます。電車の帰り道をきっかけにしていても、話す範囲は本人の生活に沿って広げられます。帰りの電車を降りたホームで、今日だれかに席や道を譲ったかを1つだけ本人に聞きます。
よくある質問
親が言ってやらせても効くのでしょうか
親に言われて行う場合の効果については、指示の有無を比べる試験で確かめる問題が残ります。Tashjian ら(2021)は利他性による違いを、Binfet ら(2019)は実行の程度による違いを報告していますが、どちらも全体の幸福感には条件間の差がありませんでした。「親が指示した子」と「自発的に始めた子」の効果の差を示した数字としては扱えず、頼み方についての結論は残ります。
見知らぬ人より家族を助けるほうがよいのでしょうか
家族を優先する根拠として使うには、相手を選んで割り当てた比較が要ります。Ju ら(2025)では家族への援助と幸福感に正の相互関係があり、見知らぬ人への援助には同じ直接の相互関係が見られませんでした。ただ、相手を家族に替える試験ではないので、これは援助の相手を順位づけした結果ではありません。食器を運ぶ行動と席を譲る行動には、それぞれ助けを受ける相手がいます。
親切をすると勉強にも効きますか
勉強の得点への効果は、今回の研究で扱った結果の範囲外です。Layous ら(2012)で親切の群に大きな増加があったのは、仲間に受け入れられる度合いです。教室の人間関係が気になる保護者には関心のある結果ですが、問題を解く速さや試験の点数を測った結果へ読み替えることはできません。親切の話を聞くときの返事に、次のテストへの期待を付け足す必要はないでしょう。
この記事の限界
比較する活動や測る幸福感の指標は研究ごとに異なり、同じ子が席を譲る日と譲らない日を比べた際の気分の差や、その変化が帰宅後まで続く時間は、ここに挙げた結果の対象外です。自己申告の感情、仲間からの受け入れ、生活の充実といった測定にはそれぞれ焦点があり、子どもの表情を見た保護者の印象と一致するとは限りません。学校の取り組みには活動を繰り返す機会が組み込まれ、電車の中で偶然生まれる手助けの機会とは頻度の決まり方も異なります。試験で扱う親切は本人が選ぶ行動の集まりなので、車内で席を譲った際の気持ちについては、親子が交わすその場の言葉で補います。
参考文献
- Curry O, et al. Happy to help? A systematic review and meta-analysis of the effects of performing acts of kindness on the well-being of the actor. Journal of Experimental Social Psychology. 2018;76:320-329.
- Layous K, et al. Kindness Counts: Prompting Prosocial Behavior in Preadolescents Boosts Peer Acceptance and Well-Being. PLoS ONE. 2012;7(12):e51380.
- Tashjian SM, et al. Evidence from a Randomized Controlled Trial that Altruism Moderates the Effect of Prosocial Acts on Adolescent Well-being. Journal of Youth and Adolescence. 2021;50(1):29-43.
- Binfet J, Whitehead J. The Effect of Engagement in a Kindness Intervention on Adolescents’ Well-Being: A Randomized Controlled Trial. 2019.
- Ju EX, et al. The Longitudinal Relationship between Adolescents’ Prosocial Behavior and Well-Being: A Cross-Lagged Panel Network Analysis. Journal of Youth and Adolescence. 2025;54(6):1428-1441.
- Petruța R, Stănculescu E. The benefits of a school intervention for prosocial behaviour and psychological well-being in early adolescents. Current Psychology. 2025;44(6):5216-5226.
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親が言ってやらせても効くのでしょうか
親に言われて行う場合の効果については、指示の有無を比べる試験で確かめる問題が残ります。Tashjian ら(2021)は利他性による違いを、Binfet ら(2019)は実行の程度による違いを報告していますが、どちらも全体の幸福感には条件間の差がありませんでした。「親が指示した子」と「自発的に始めた子」の効果の差を示した数字としては扱えず、頼み方についての結論は残ります。
見知らぬ人より家族を助けるほうがよいのでしょうか
家族を優先する根拠として使うには、相手を選んで割り当てた比較が要ります。Ju ら(2025)では家族への援助と幸福感に正の相互関係があり、見知らぬ人への援助には同じ直接の相互関係が見られませんでした。ただ、相手を家族に替える試験ではないので、これは援助の相手を順位づけした結果ではありません。食器を運ぶ行動と席を譲る行動には、それぞれ助けを受ける相手がいます。
親切をすると勉強にも効きますか
勉強の得点への効果は、今回の研究で扱った結果の範囲外です。Layous ら(2012)で親切の群に大きな増加があったのは、仲間に受け入れられる度合いです。教室の人間関係が気になる保護者には関心のある結果ですが、問題を解く速さや試験の点数を測った結果へ読み替えることはできません。親切の話を聞くときの返事に、次のテストへの期待を付け足す必要はないでしょう。