- 通学路の対策は、歩く場所などの環境を変える働きかけとして調べられています。
- 評価には、歩行者のけが、歩行者と自転車のけが、衝突、通学手段の割合という異なる指標があります。
- 対策前後の変化を読む際には、同じ時期の比較地区や大人の変化も重要です。
- 歩いて通う子の増加と、けがの減少は、それぞれ別に捉える成果です。
通塾の道の危ない場所を直すと事故は減るか|通学路の安全対策の研究
| 研究の結論(原文) |
|---|
| 「Implementation of the SRTS program appears to have contributed to improving traffic safety for school-age children in the United States.」 |
米国の通学路安全対策は、学齢期の子どもの交通安全の改善に寄与したようだ、というDiMaggio ら(2016)の結論です。ここでいうSRTSは、歩道などの環境を整え、徒歩や自転車で学校へ通いやすくする米国の公的な対策事業を指します。子どもに気をつけるよう伝えるだけでなく、通る道の側を変える取り組みを調べています。
西武新宿線の踏切を渡った先で、横断歩道の白線が塗り直され、歩く場所が広くなった道を思い浮かべてみます。見た目の変化はすぐわかりますが、保護者が知りたいのは、道の危ない場所を直すと子どもの事故も減るのか、ということです。通学路の対策と子どものけがの減少が結びついた報告はありますが、効果は地域や評価の仕方によって異なります。工事の有無に加え、けがを数えた範囲や比較相手に目を向けると、道の変化をどう受け止めるかが定まります。
要点
- 通学路の対策は、歩く場所などの環境を変える働きかけとして調べられています。
- 評価には、歩行者のけが、歩行者と自転車のけが、衝突、通学手段の割合という異なる指標があります。
- 対策前後の変化を読む際には、同じ時期の比較地区や大人の変化も重要です。
- 歩いて通う子の増加と、けがの減少は、それぞれ別に捉える成果です。
登下校の時間帯に減った歩行者のけが
Dimaggio ら(2013)は、ニューヨーク市の2001〜2010年の歩行者のけが168806件について、事故の場所と人口を用いて調べました。道路で起きた事故の記録から、対策のあった地区となかった地区を比較する研究です。学校へ通う年齢の子に注目し、登下校の時間帯のけがの率が対策の前後でどう変わったかを分析しています。道路を歩いた子の感想ではなく、けがの記録を使った点が特徴です。
Dimaggio ら(2013)によると、対策のあった地区では、登下校の時間帯における子どもの年間のけがの率が、対策前の2001〜2008年の人口10000人あたり8.0件から、対策後の2009〜2010年の4.4件へ下がりました。報告された減少率は44%で、対策のなかった地区の率はほぼ変わりませんでした。工事の後に減ったという順序だけでなく、近い時期に対策を受けなかった地区を置いているため、都市全体の変化とも照らし合わせた結果です。
ただしDimaggio ら(2013)の44%という推定には幅があり、95%信頼区間は17〜65%でした。信頼区間は、データから見積もった値の不確かさを表す範囲です。減少の方向は示されても、効果の大きさを単一の数字で固定して受け止めるべき結果ではありません。横断歩道の塗り直しや歩道の拡幅といった個別の工事を考える際も、この研究の単位が対策を受けた地区であることに目を向けます。
通う道について話すときにも、道全体の印象と、変わった部分の役割は分けて考えると伝えやすくなります。白線が見やすくなった場所なら渡る位置、歩く空間が広くなった場所なら車と接する部分、と見る対象が違います。整った外観だけを評価するよりも、子どもの動きがどこで変わる工事なのかに注目する読み方です。
大人も減っていたテキサス州の記録
DiMaggio ら(2015)は、テキサス州の2008年1月〜2013年6月の交通事故記録を用い、2009年より後に実施された対策との関連を調べました。対策前後で、5〜19歳の歩行者と自転車利用者の年間のけがの率は42.5%下がりました。同じ比較で、30〜64歳の大人も33.0%下がっています。子どもの数字だけを読めば大きな改善ですが、大人にも変化が起きていたことが、この結果の読み方を変えます。
DiMaggio ら(2015)が対策と結びつけて報告した減少は14%で、けがの発生率の比は0.86、95%信頼区間は0.75〜0.98でした。発生率の比は、比較する側に対してどの程度の率だったかを表す値です。子どものけがが減った割合と、比較相手の変化を踏まえて対策に関連すると推定した割合とでは、答えている問いが違います。前者は地域で起きた変化を示し、後者はそのうち対策との結びつきを調べています。
このような記録による観察研究では、交通量や他の安全対策など、同じ時期に動いた要因が結果に混ざる可能性があります。対策を入れる場所を偶然に割り振った試験ではないため、整備したことだけが減少の原因だと決めることはできません。一方、比較相手にも起きた変化を検討する方法は、単なる前後の感想よりも、対策の寄与を慎重に捉えようとする工夫です。
地域の整備について「事故が減った」と聞いた際も、何と比較した話なのかが重要になります。整備した場所の過去との比較なのか、整備していない場所を含めた比較なのかで、数字の意味が変わります。工事を評価する資料を読むときは、結果の割合の隣にある対象地域と比較期間まで目を通すと、変化の背景を追えます。
広い地域での改善と、関連が出なかった評価
DiMaggio ら(2016)は、米国18州の1995〜2010年という16年分の事故記録を使い、5〜19歳の子どもと30〜64歳の大人を比較しました。通学路の対策は、子どもの歩行者・自転車利用者のけがの危険の約23%の減少と関連していました。死亡の危険についても20%の減少との関連を報告しています。市内の歩行者だけを見た研究から範囲を広げ、異なる州の記録をまとめた分析です。
死亡という結果では、別の評価も併せて読む必要があります。DiMaggio ら(2015)のテキサス州の研究では、死亡についての変化はけがより小さく、統計上はっきりした差は出ませんでした。またKang ら(2020)は、ニューヨーク州の学校周辺で起きた歩行者・自転車の衝突を対象に、対策のある側と比較する側の前後を分析しました。論文は対策と衝突の減少との明確な関連がなかったと報告しており、肯定的な結果だけが並ぶ分野ではありません。
比較の対象を整理すると、研究同士の答えが違っても、そのまま矛盾とは扱えないことがわかります。けがをした人を数えるのか、衝突を数えるのかに加えて、地区全体と学校周辺という範囲も違います。次の表は、同じ事業について各研究がどの変化を見たかをまとめたものです。
| 研究 | 比較したもの | 報告された結果 |
|---|---|---|
| Dimaggio ら(2013) | ニューヨーク市の対策地区と比較地区の歩行者のけが | 登下校の時間帯に対策地区で減少 |
| DiMaggio ら(2016) | 米国の複数州での子どもと大人の事故記録 | 子どものけがと死亡の減少に関連 |
| DiMaggio ら(2015) | テキサス州の対策前後と大人の変化 | けがの減少に関連し、死亡の差は明確でない |
| Kang ら(2020) | ニューヨーク州の対策側と比較側の学校周辺の衝突 | 衝突の減少との明確な関連なし |
歩く子が増えることと、安全になること
Stewart ら(2014)は、米国の4州で完了した48の事業と、その影響を受けた53校を対象に、徒歩や自転車で通う割合の前後を比較しました。徒歩・自転車などを合わせた割合は12.9%から17.6%に増え、徒歩は9.8%から14.2%、自転車は2.5%から3.0%へ増えています。参加校は便宜的に集められたもので、対策を受けなかった学校を同時に置く方法ではありません。これは通学手段の変化を測った結果であり、けがの人数を数えた研究とは役割が異なります。
徒歩で通う子が増えると、道を利用する人数も変わります。同じ場所のけがの件数が横ばいでも、歩く人数や道路を渡る機会が違えば、利用者にとっての危険の意味は同じになりません。逆に歩く子が減った場所では、けがの件数も減ることがあります。通学路の評価では、けがの記録と、どれほど歩かれているかの両方を見たい理由がここにあります。
Hoelscher ら(2016)は、テキサス州で工事を伴う取り組みの23校、工事を伴わない取り組みの21校、比較する34校を調べました。朝の徒歩・自転車通学の割合は、どちらの取り組みの学校でも比較校より高いという結果でした。一方、午後には、工事を伴わない取り組みの学校で、その割合が比較校より時間とともに大きく下がりました。通学の行きと帰りを一緒にすると、この異なる動きが隠れてしまいます。
歩きやすくする取り組みを、全員に徒歩通学を勧める理由へ置き換える必要もありません。歩くことに痛みや強い負担がある子、移動に介助が要る子には、歩行の増加を目標にする方法が合わない場合があります。整備の後も、車との接点で起こる衝突やけがは、通い方を選ぶ際の中心的な問題です。歩道を使いやすくする目的と、本人が無理なく通う手段を持つ目的を、同時に扱うことが大切です。
工事の変化を、子どもの視点から伝える
新しくなった歩道の上に立つと、大人は幅や舗装に目が向きやすいものです。子どもには、工事で変わった場所を通る前と後で、車の速さをどう感じるようになったかを聞いてみます。以前は近くを走るように感じたのか、今も曲がってくる車が気になるのか、と場所に結びつけて話してもらいます。速さの感じ方は事故率の測定ではありませんが、本人がどの接点を負担に思っているかを知る話になります。
たとえば、歩道が広がった部分は歩きやすくても、その先で道幅が戻るところに戸惑いが残るかもしれません。横断する場所がはっきりしても、そこに着くまでの店の出入口が気になる場合もあります。こうした違いを言葉にする際は、「全部危ない」「もう大丈夫」と道全体に評価をつけず、どの場所でどの動きに困るかを表します。これは研究結果を子どもに教える場面ではなく、日常の経路の様子を大人が受け取る場面です。
危ないと感じる場所があれば、市や学校の窓口へ伝える方法を調べておきます。現在の窓口や案内は自治体・学校の最新の情報で確かめ、場所の呼び方、通る方向、困った状況を伝えられるようにします。「車が多い」という説明に、曲がる車と歩行者が重なる出入口なのか、歩く場所が途切れるところなのかを加えると、話の対象が絞れます。工事の希望だけでなく、子どもが実際にどこを通るかも伝える内容になります。
なお、塾へ通う経路が学校の通学路の対策の対象になるとは限りません。学校へ向かう道から途中で曲がる経路なら、工事が行われた区間と子どもが使う区間を区別して伝えます。道の名称だけでは位置が伝わりにくいときには、目印になる交差点や出入口との関係を添えます。相談先の担当する範囲も含めて確かめれば、学校周辺の話と塾までの道の話を混同せずに相談を進められます。
西東京市から進学塾へ通う道の踏切で見ること
塾へ向かう時刻に踏切の手前から親子で歩き、信号、横断歩道、歩道の切れ目を順に数えてみます。数える目的は、危険度の点数をつけることではなく、歩き続ける場所から車と交わる場所へ切り替わるところを拾うことです。信号がある場所だけでなく、歩道が終わるところで本人がどちらへ体を向けるかにも目を向けます。道の名称を知っていることと、実際の歩き方を一緒に見たことの違いが、ここで現れます。
数えながら見ると、工事の終わりと子どもの移動の終わりが一致しないことにも気づきます。整備された区間を出た後に道を横切るなら、そこまでが通塾の経路です。歩道の切れ目の先が見通せるか、曲がる場所に歩行者がとどまる余地があるかなど、つながりとして見ます。車が近づく場所で立ち止まって観察を続けるのではなく、落ち着いて様子を見られる場所から行います。
また、同じ工事でも、道のどちら側を使うかによって目に入るものが違います。行きに広く見えた歩道が、帰りには出入口を続けて横切る道として感じられることもあります。保護者が普段通る側をそのまま基準にせず、子どもの進行方向に沿って歩くと、歩道から車道へ意識を向ける箇所を追いやすくなります。数を増やすより、見落としていた接点を見つけるための歩き方です。
踏切へ戻ったら、本人が渡る前に立ち止まる位置を足元で確かめます。遮断機の手前の線や歩道の段差と、本人の靴との位置関係を一緒に見ます。いつもそこで待つなら、後ろから来た歩行者や自転車が通る余地も目に入ります。親が隣に立つ位置は、本人の待つ場所を車の側へ押し出さない側に取ります。
よくある質問
夜の授業の帰りも、登下校と同じように考えてよいですか
帰りが夜なら、沿道の出入口が開いているか、人や車の流れがどちらへ向くかを、その時刻の経路に沿って捉えます。Hoelscher ら(2016)が朝と午後を別に評価したように、行きと帰りは同じ通学でも条件を分けて考える価値があります。昼間の歩きやすさを思い出すだけでなく、帰る時間の使われ方を保護者も見ておくと、迎えに出る場合の合流場所を話し合いやすくなります。
自転車で通う場合は、何に注目しますか
塾の近くで自転車を降りるなら、乗って移動する区間から押して歩く区間へ移る場所に注目します。DiMaggio ら(2016)は歩行者と自転車利用者のけがを扱っており、道を使う手段の違いも研究の対象です。家庭では走る部分だけを眺めず、降りた後に自転車を押す幅や、停める場所へ向かう出入口までを続けて見ます。歩行者とすれ違う際に、自転車の車体がどこを通るかも観察する点です。
引っ越して道が変わったら、最初に何を見ますか
新居からの近道だけでなく、広い道へ出るまでの角や、建物で先が隠れる出入口を親子でたどります。最初の確認では、本人が見通せない場所から急に車道へ出る形になっていないかに目を向けます。研究の前後比較が同じ場所の変化を追っているのに対し、引っ越しでは経路自体が入れ替わるので、以前の道の歩き慣れをいったん脇に置く考え方です。塾の場所を知っていても、新居から合流する区間には改めて目を通します。
この記事の限界
適用範囲は米国の公的な通学路対策の評価であり、日本の通学路の点検制度や東京の夜の通塾を直接調べた研究は見つかりませんでした。対象となる事業には道路の整備や教育が組み合わされているため、特定の横断歩道の塗り直しだけに同じ減少率を当てはめることはできません。
また、地区や学校の周辺をまとめた集計と、子どもが毎回たどる経路とでは、評価する範囲に隔たりがあります。対策地区と比較地区の記録から得られた値が表すのは地域としての変化であり、一人ひとりがどの角を曲がり、どの踏切の前で待ったかという道筋ごとの危なさは測定の対象外です。
参考文献
- Dimaggio C, et al. Effectiveness of a safe routes to school program in preventing school-aged pedestrian injury. Pediatrics. 2013;131(2):290-296.
- DiMaggio C, et al. National Safe Routes to School program and risk of school-age pedestrian and bicyclist injury. Ann Epidemiol. 2016;26(6):412-417.
- DiMaggio C, et al. Association of the Safe Routes to School program with school-age pedestrian and bicyclist injury risk in Texas. Inj Epidemiol. 2015;2(1):15.
- Kang B, et al. No association between Safe Routes to school programs and school-age pedestrian or bicyclist collisions in New York State. J Transp Health. 2020;18:100866.
- Stewart O, et al. Multistate evaluation of safe routes to school programs. Am J Health Promot. 2014;28(3 Suppl):S89-96.
- Hoelscher D, et al. Effects of Funding Allocation for Safe Routes to School Programs on Active Commuting to School and Related Behavioral, Knowledge, and Psychosocial Outcomes. Environ Behav. 2016;48(1):210-229.
改札を出てから扉に着くまでの数分が、続くかどうかを決める。
- 向く人: 授業や練習のあと、駅までの帰り道をできるだけ短くしたい人
- 向く人: 通勤や通学の途中の駅で、乗り換えを増やさずに通いたい人
- 向かない人: 駅から離れた場所へ、車の送り迎えで通うことを前提にしたい人
- 向かない人: 移動をせず、自宅だけで学びや運動を済ませたい人
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夜の授業の帰りも、登下校と同じように考えてよいですか
帰りが夜なら、沿道の出入口が開いているか、人や車の流れがどちらへ向くかを、その時刻の経路に沿って捉えます。Hoelscher ら(2016)が朝と午後を別に評価したように、行きと帰りは同じ通学でも条件を分けて考える価値があります。昼間の歩きやすさを思い出すだけでなく、帰る時間の使われ方を保護者も見ておくと、迎えに出る場合の合流場所を話し合いやすくなります。
自転車で通う場合は、何に注目しますか
塾の近くで自転車を降りるなら、乗って移動する区間から押して歩く区間へ移る場所に注目します。DiMaggio ら(2016)は歩行者と自転車利用者のけがを扱っており、道を使う手段の違いも研究の対象です。家庭では走る部分だけを眺めず、降りた後に自転車を押す幅や、停める場所へ向かう出入口までを続けて見ます。歩行者とすれ違う際に、自転車の車体がどこを通るかも観察する点です。
引っ越して道が変わったら、最初に何を見ますか
新居からの近道だけでなく、広い道へ出るまでの角や、建物で先が隠れる出入口を親子でたどります。最初の確認では、本人が見通せない場所から急に車道へ出る形になっていないかに目を向けます。研究の前後比較が同じ場所の変化を追っているのに対し、引っ越しでは経路自体が入れ替わるので、以前の道の歩き慣れをいったん脇に置く考え方です。塾の場所を知っていても、新居から合流する区間には改めて目を通します。