- Schalamon ら(2006)の受診記録では、かんだ犬は子どもの知っている犬であることが多く、幼い子のけがが目立ちました。
- Meints ら(2009)と Schwebel ら(2012)は、教材で学んだ知識と犬の前での行動を別々に評価しています。
- Duperrex ら(2009)の研究のまとめでは、教育後の犬にかまれる率を直接測った研究がありませんでした。
- Kienesberger ら(2022)は、教育の取り組み後の記録で、重いけがの割合と事故の頻度が異なる動きをしたと報告しています。
徒歩で通塾する道で犬に近づく子|子どもが犬にかまれる事故と予防の研究
保谷駅から住宅街の路地を歩いて塾へ向かう途中、門の内側につながれた犬に気づいた子が、歩みを緩めて手を伸ばそうとします。いつも見かける犬なら、名前を呼んでなでたい気持ちもあるでしょう。そばにいる親は、犬が好きな気持ちを大切にしながら、どこで止めるべきか迷うかもしれません。子どもが犬にかまれる事故はどんな相手との間で起き、接し方を教えることは予防につながるのでしょうか。
知っている犬との事故も多く、教育で安全な選び方を学べても、それだけで実際のけがが減るという証拠は十分ではありません。 病院の記録が示すけがの起き方と、教材を使った試験が示す学び方には、それぞれ異なる役割があります。前者からは被害を受けた子と犬との関係が、後者からは教えた内容がどこまで身についたかが読み取れます。犬を一律に危険な存在として扱うより、子どもが手を伸ばす場面や、大人が関わる場面を具体的に考えるために研究を読みます。
要点
- Schalamon ら(2006)の受診記録では、かんだ犬は子どもの知っている犬であることが多く、幼い子のけがが目立ちました。
- Meints ら(2009)と Schwebel ら(2012)は、教材で学んだ知識と犬の前での行動を別々に評価しています。
- Duperrex ら(2009)の研究のまとめでは、教育後の犬にかまれる率を直接測った研究がありませんでした。
- Kienesberger ら(2022)は、教育の取り組み後の記録で、重いけがの割合と事故の頻度が異なる動きをしたと報告しています。
知らない犬だけに目を向けない
「道で知らない犬に近づかなければよい」と考えると、ふだん会う犬との接触が視野から抜けます。Schalamon ら(2006)は、1994〜2003年に犬にかまれて受診した17歳未満の子どもの診療記録を振り返りました。対象は341人、平均年齢は5.9歳で、かんだ犬の82%は子どもの知っている犬でした。この割合が示すのは、被害の記録には面識のある相手が大きく関わっていたということです。
ここでいう「知っている犬」は、「子どもの家で飼っている犬」と同じ意味ではありません。知人の家や日常の行き来で会う犬も考える必要があり、面識という分類を所有者の分類へ置き換えると話が変わります。また、事故のあった相手の内訳と、出会ったときのかまれやすさも別です。日ごろ何度接していたかをそろえた比較ではないため、この数字を犬との面識ごとの危険度として扱わず、注意の対象を身近な関係にも広げて読みます。
子どもの「知っている」という言葉にも幅があります。名前を知っている、通りから見たことがある、飼い主と話したことがある、家の中で一緒に過ごしたことがある、という違いです。大人が「知っている犬ならよい」とだけ伝えると、どの程度の関係を指すのかが曖昧になります。通塾の道で毎回見かけることと、触れる場面を大人が見守っていることを、同じ安心の理由にしない整理が役立ちます。
幼い子に多い顔や頭のけが
Schalamon ら(2006)の記録では、0〜16歳の子ども1000人あたりの年間発生率は0.5で、1歳で最も高く、年齢が上がると低くなっていました。これは医療機関への受診に至った犬によるかみ傷の率です。学校へ通う年齢だけを集めた値でも、道路上の事故だけを数えた値でもありません。年齢をまとめた数字を読むときには、最も幼い層の特徴が全体に反映されていることを押さえます。
けがの場所にも偏りがあり、Schalamon ら(2006)が数えた357のけがのうち、顔・頭・首が50%を占めました。入院が必要だったのは93人で、患者の27%でした。けがをした場所を数えた集計と、入院した子を数えた集計では、数える単位が違います。顔のけがの割合を、そのまま顔をかまれる子の割合として読み替えないことが大切です。
この結果は、手先の小さな傷だけを思い浮かべている保護者に、けがの広がりを伝えます。一方で、傷の写真や怖い話を使い、子どもを驚かせることを目的にする必要はありません。かまれて皮膚が破れたときは医療機関を受診し、子どもには叱られる心配より先に大人へ知らせてよいと伝えます。通う途中の出来事でも、授業に遅れそうだという理由で報告を後回しにさせない対応が大切です。
家庭で話す際には、犬を好きなことと、傷について話すことを対立させない工夫もあります。「触りに行ったから悪い」と原因を先に決めるより、起きた場所と体のどこが痛いかを聞く順番にします。犬への気持ちを説明させる前に、今の状態を大人が受け止めるという順番です。これは子どもに事故の責任を負わせず、必要な対応へつなぐための会話になります。
教材で学ぶ力と犬の前で動く力
Meints ら(2009)は、3〜6歳の96人に、画面を操作しながら犬との接し方を学ぶ教材を使ってもらいました。教材に触れる段階、練習する段階、試す段階を設けると、どの年齢でも安全な選択が増え、年長の子のほうがよい成績でした。安全な選び方は2週間後にも保たれていました。著者らは、子どもが犬との安全な行動を学ぶために教材が役立つと結論づけています。
これに対し、Schwebel ら(2012)は、3.5〜6歳の76人について、同じ犬の教材を使う群と、火災の安全について学ぶ群を比べました。犬の危ない場面を見分ける力は、犬の教材の群でより改善しましたが、人形の家を使った課題で思い出す力と、生きた犬の前での危険な行動には群の差がありませんでした。見分ける、思い出す、その場で行動するという段階を分けたことで、学習の届いた範囲が明らかになった試験です。正解を選べたことを、動作まで身についたという評価に広げない読み方が必要です。
保護者が教材を選ぶなら、子どもが受け身で眺めるだけか、自分で選んで答える場面があるかを見ると、研究で扱った学び方との違いを捉えやすくなります。見終わった後の感想が「楽しかった」だけでも、学習した内容を話すきっかけにはなります。反対に、答えをよく覚えている子でも、現実の犬を使って抜き打ちの試験をする理由にはなりません。楽しんで学ぶこと、内容を理解すること、大人が実際の接触を管理することは、それぞれ別の役割です。
事故の件数と重さは別の成果
Duperrex ら(2009)は、あらかじめ条件を決めて研究を集める系統的レビューで、20歳未満を対象とする犬の事故予防教育を検討しました。条件に合ったのは2研究で、主に知りたかった犬にかまれる率を調べた研究はありませんでした。一方には教育後の不適切な行動の減少、もう一方には知識と慎重さの増加がありました。著者らは、教育だけを公衆衛生上の対策として採用して、かまれるけがとその影響を減らせるという直接の証拠はないと結論づけています。
Kienesberger ら(2022)は、2014〜2018年に犬に関連するけがで受診した15歳未満の296人を調べ、そのうち212人、71.6%が犬にかまれていました。重いけがの割合は8%で、先行研究の26%より低く、入院を必要とした割合も以前の27.5%から9.0%に下がっていました。著者らは、小学生への広い予防の取り組みは重症度を下げる可能性がある一方、頻度は下げていないと報告しています。ここで比べたのは同じ施設の異なる時期の記録であり、教育を受けた群と受けなかった群を同時に比べた試験とは異なります。
Chapman ら(2000)には、学校での教育の介入を無作為化試験で調べた研究もあります。無作為化試験とは、比較する群への割り当てを偶然に任せ、もとの違いが偏りにくくなるようにする方法です。研究を読む際には、割り当て方に加えて、何を成果として測ったかにも注目します。犬の予防教育については、次のように測定した内容を並べると、結果の意味を見失いにくくなります。
| 測ったこと | 研究の結果 | 対象・比較の形 |
|---|---|---|
| 教材で安全な答えを選ぶこと | 学習後に改善した(Meints ら(2009)) | 就学前の子どもの学習前後 |
| 実際の犬の前での行動 | 教材の群と比較群に差がなかった(Schwebel ら(2012)) | 犬の教材と火災安全の学習との比較 |
| 犬にかまれる率 | 集めた研究では測っていなかった(Duperrex ら(2009)) | 教育研究の系統的レビュー |
| けがの重さと頻度 | 重症度は低下したが頻度は下がらなかった(Kienesberger ら(2022)) | 病院の異なる時期の記録の比較 |
犬に触る前の会話を場面ごとに変える
道につながれた犬を見た場合を取り上げ、飼い主に声をかけてから近づくかを親子で話し合います。「つながれているから触れる」と考えているのか、「飼い主がいても今は通り過ぎる」と考えているのかで、話す内容が変わります。声をかけることは、触ってよいと自分で判断して接近する前に、大人とのやり取りを挟むための手順です。飼い主が見当たらない犬には手を伸ばさず、そのまま距離を取って通る選択も会話に含めます。
知人の家では、犬が食べているときや寝ているときに触らない理由を、子ども自身の言葉で説明してもらいます。「おやつを持っているから仲よくなれる」と考える子と、「寝ているから静かになでられる」と考える子では、注目しているものが違います。大人が正解の文を先に読み上げるより、子どもがどんな場面を思い浮かべているかを聞く時間を取ります。犬の食事や休息を邪魔せずに過ごすことを、その家での過ごし方として飼い主とも共有します。
犬がこちらへ走ってきたときについては、自分も走るつもりか、その場で止まるつもりかを聞きます。落ち着いて止まり、急に走って逃げない動きを言葉で確かめ、実際に犬を近づける練習はしません。犬を怖がる子にとっては、触れることを練習の到達点にすると負担が増します。離れて過ごす選択も認め、本人が落ち着いて会話に参加できる形にします。
こうした話し合いでは、子どもだけに判断を任せるのではなく、そばにいる大人が何をするかも言葉にします。訪問先なら、子どもが犬のいる場所へ入る前に、大人どうしで過ごす場所を相談する役割があります。通るだけの道と、家の中で時間を過ごす場面では、接触の機会を調整する方法も違います。教材を見せる役割に加え、現実の場面を整える役割を大人が引き受けます。
路地の門の前で歩く側を選ぶ
塾へ向かう夕方、家を出る前に、いつも犬がつながれている家の前が道中にあるかを思い出してもらいます。門の内側なのか、駐車場の端なのかを、本人がふだん見ている場所の言葉で表します。犬を見かけたことがないなら、探すために家の敷地をのぞく必要はありません。知っている場所がある場合に、その前で歩く側を親子で検討します。
考えるのは、犬のいる位置と道路の通れる幅との関係です。門から離れるつもりで急に車道へ寄ると、今度は車や自転車の通り道との関係が変わります。親が同行する機会には、犬へ近づかずに歩ける余地と、周りの交通を同じ視野に入れて見ます。幅が足りない場所では、その場の狭さを子どもの度胸で解決させず、通る道そのものを選び直すことも考えます。
行きと帰りで荷物や一緒に歩く相手が違うなら、門の前で立ち止まる理由も変わるかもしれません。友だちを待つために止まる場所と、単に通り過ぎる場所とでは、犬の近くにいる時間の使い方が違います。その家の前を待ち合わせ場所にしている場合は、通り道に余裕のある別の場所へ移す相談ができます。犬に触れるかどうか以外にも、接触を減らす選択肢があります。
門の前を通る側は、犬の位置だけでなく車の来る方向も含めて選びます。親子の会話が「気をつけて」で終わらず、本人の足が通る場所に結びつくことが大切です。帰りに迎える保護者も、犬のいる門を子どもが待つ場所として指定しないよう、待ち合わせの位置を合わせます。
よくある質問
犬を飼っている家の子には、別の教材が必要ですか
まず、自宅の犬との暮らしの中で、家族が子どもに任せている役割を確かめると話を始めやすくなります。Meints ら(2009)の教材研究は安全な選択を学ぶ内容なので、家庭では食事の用意や遊びの場面を会話の入口にする方法があります。飼育経験を理由に学習を省くより、自分の家では誰が接触を見守るのかを言葉にすると、家族の役割に沿って話せます。
中学生にも幼児向けの教材を見せるべきですか
中学生なら、犬との接し方に加え、年下のきょうだいと知人宅へ行くときの役割を話題にする方法があります。自分が犬好きでも、幼い子を犬のそばへ誘うかどうかは別の判断です。Schalamon ら(2006)の記録で幼い子のけがが目立ったことを踏まえ、きょうだいが近づこうとした際には、中学生が抱え込まず、その場の大人へ知らせる役割として話し合います。
夜、姿が見えない犬に吠えられたらどう話せばよいですか
帰宅後に話すなら、犬の姿を探したか、音がした場所から離れたかと、本人が実際に取った動きを順に聞きます。Schwebel ら(2012)が知識と行動を別に評価したように、家庭でも「正しい答えを知っていたか」だけで会話を終えない方法です。暗くて犬の位置が見えないことと、子どもが驚いたことを受け止め、門の中を確かめに戻らせず、帰宅した後で大人と状況を共有します。
この記事の限界
対象は、教育研究では主に就学前の子どもと小学生で、中学生を対象に教育の効果を調べた研究はここにありません。病院の過去の記録を比べた研究では、受診の仕方や周囲の環境も時期によって変わりうるため、重いけがの減少を教育だけの効果と断定することはできません。
日本の駅から塾までを歩く子どもの接触場面を調べた研究は見つからず、海外の教育課題と受診記録を通塾の場面に照らして読みました。医療機関を受診した子どもの記録から、通塾の行き帰りでかまれた例だけを取り出して比べた内訳は示されていません。
参考文献
- Schalamon J, et al. Analysis of dog bites in children who are younger than 17 years. Pediatrics. 2006;117(3):e374-9.
- Meints K, et al. Brief report: Don’t kiss a sleeping dog: the first assessment of “the blue dog” bite prevention program. J Pediatr Psychol. 2009;34(10):1084-1090.
- Schwebel DC, et al. The Blue Dog: evaluation of an interactive software program to teach young children how to interact safely with dogs. J Pediatr Psychol. 2012;37(3):272-281.
- Duperrex O, et al. Education of children and adolescents for the prevention of dog bite injuries. Cochrane Database Syst Rev. 2009;(2):CD004726.
- Kienesberger B, et al. Child safety programs for primary school children decrease the injury severity of dog bites. Eur J Pediatr. 2022;181(2):709-714.
- Chapman S, et al. Preventing dog bites in children: randomised controlled trial of an educational intervention. BMJ. 2000;320(7248):1512-1513.
改札を出てから扉に着くまでの数分が、続くかどうかを決める。
- 向く人: 授業や練習のあと、駅までの帰り道をできるだけ短くしたい人
- 向く人: 通勤や通学の途中の駅で、乗り換えを増やさずに通いたい人
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犬を飼っている家の子には、別の教材が必要ですか
まず、自宅の犬との暮らしの中で、家族が子どもに任せている役割を確かめると話を始めやすくなります。Meints ら(2009)の教材研究は安全な選択を学ぶ内容なので、家庭では食事の用意や遊びの場面を会話の入口にする方法があります。飼育経験を理由に学習を省くより、自分の家では誰が接触を見守るのかを言葉にすると、家族の役割に沿って話せます。
中学生にも幼児向けの教材を見せるべきですか
中学生なら、犬との接し方に加え、年下のきょうだいと知人宅へ行くときの役割を話題にする方法があります。自分が犬好きでも、幼い子を犬のそばへ誘うかどうかは別の判断です。Schalamon ら(2006)の記録で幼い子のけがが目立ったことを踏まえ、きょうだいが近づこうとした際には、中学生が抱え込まず、その場の大人へ知らせる役割として話し合います。
夜、姿が見えない犬に吠えられたらどう話せばよいですか
帰宅後に話すなら、犬の姿を探したか、音がした場所から離れたかと、本人が実際に取った動きを順に聞きます。Schwebel ら(2012)が知識と行動を別に評価したように、家庭でも「正しい答えを知っていたか」だけで会話を終えない方法です。暗くて犬の位置が見えないことと、子どもが驚いたことを受け止め、門の中を確かめに戻らせず、帰宅した後で大人と状況を共有します。